ともに生きる・福祉のページ
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みんなで海釣り リレートーク・体験(2006/09/12)

写真  みんなで海釣りをしよう…と、障害のある人たちと一緒に「体験する」催しが、今年も8月27日、宮津市の府立海洋高校で開かれた。前日の26日は、宿舎の府立青少年海洋センター・マリーンピアで「余暇を楽しむ 自立を支えるリレートーク」が行われ、昨年開いた障害のある人たちの「人の輪サミット」に続き、今年は支援のボランティアらが、ともに余暇を楽しむ大切さを語り合った。


 初めに、この講座への協力を続けている釣り鯛クラブ代表で華頂短大講師の武田康晴さんが「障害のある人が自立するとは、自分の人生を自分として生きることだろう。10数年前に、障害のある人と釣りに行ったのが私たちのクラブの始まりだが、障害のある人を連れて行ったのではなく、釣り仲間が障害をもっていただけ。自立を支えるとは、一緒に楽しむことではないか」と基調発言した。


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 続いて、ボランティアらがリレー式に思いを披露。地元の障害者生活支援センター「かもめ」センター長の荒砂慶子さんは「海のまん前が自宅だから、日常の中に海・釣り・魚がある。自然と釣りの世界に入れるから、うれしい出会いがあり、豊かな気持ちにしてくれる」と釣りの効用を語れば、同じく支援センター「結(ゆい)」センター長の石塚寿幸さんも「障害のある人たちからガイドヘルプの相談を受けるが、そんな人はしっかり余暇の目的を持っている。私といえば、今のところ余暇らしきものがなく、ゆとりもない。これからは時間を作って、周りの人と一緒に楽しめたらと思っている」と続けた。

 知的ハンディのある人たちの施設で働き、長年、京都からボランティア参加している植村能匡さんは「この講座で感じるのだが、釣りのインストラクターたちが、すごく楽しそうに教えておられる。仕事や日常生活の中で、つい忘れている『楽しむことの共有』が大切だなと、つくづく思う。ボランティアたちも『支える』ことで、すごくいい時間を過ごし、気持ちをリフレッシュして帰っているんですよ」と思いを語った。

 今回も安全な釣り場を提供した府立海洋高校の生徒大田響介さん(3年)は「授業の体験乗船で、仲間と協力することの大切さを学んでいる。明日も海釣りに参加された皆さんと、ぜひ協力しあって、大いに楽しみましょう」と呼びかけると、会場から一斉に拍手が送られた。同じ海洋高校生徒の松本友弘さん(3年)も「父は漁師。僕も小さな時から釣りを覚え、60センチのメダイを上げたことがある。釣りは、やって初めて面白さが分かる。講座には2回目の参加だが、去年は一緒に釣りながら、いっぱい話をした。そこで、海はふるさと…との思いがますます強くなった」と、目を輝かせる。


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 広島から12人の仲間と参加した府中生活支援センター「は〜と&は〜と」の平岡辰士さんは「釣りの醍醐味は、さおから手に伝わる、あのビビッという感覚ですよ。下腹に響きますね。それと、釣りをすることで、海と上流の川、森、魚類、生き物、地球のことを考える機会になる。生活のなかにもビビッという感覚が必要なのでしょうね」と語れば、神戸から3回目の参加という吉田賀津子さんは「夫が釣り好きで、朝3時に送り出して留守番ばかりしていた。自分が半身不随になってから、この講座に誘われて参加しているが、すっかりとりこになりました」と、夫と仲間に感謝。

 宮津市社会福祉協議会専門員の上辻孝太さんは毎年、講座の受け入れに尽力している一人。「(初期に)小型バスで参加者を送迎していた時と比べれば、出番がなくなった」と謙遜しながらも「身構えてお手伝いするのではなく、ともに楽しむことの大切さがわかった」と語る。

 今年で9回目の釣り講座を支えてきたのは釣り愛好団体のメンバー。極意を手ほどきするのはもちろん、前夜からの仕掛けづくり、交流会の話相手から食事の介助にと大奮闘。京都竿流会会長の山見敏裕さんは「長い間、トーナメントなどに参加して競い合ってきたが、釣りのこころを忘れかけていました。この講座で皆さんと出会って、もう一度、それに目覚めた。季節に触れながら、自然とのやりとり…。原点に返ることができた」と述懐する。

 リレー発言を聞いて、この日の助言者、谷口明広さん(自立生活問題研究所所長)は「障害者自立支援法が10月、本格的に実施されるが、余暇とか自由な時間が脅かされるのではないかと危ぐする。こんな時こそ、障害者は理由をつけて、もっともっと遊びましょう」と余暇活用を勧める。

 最後に武田さんが「余暇を楽しむことの大切さが再確認できた。私たちは一度しかない自分の人生を、障害者抜きで生きたいか、障害者とともに生きたいか。どちらの自分で在りたいかを考えたい」と締めくくった。


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写真 「みんなで海釣り 障害のある人の体験講座」は、京都新聞社会福祉事業団、神戸新聞厚生事業団、自立生活問題研究所が毎夏、1泊2日で催している。9回目の今年も、京都・滋賀・兵庫・広島から障害のある60人と、釣り愛好団体のインストラクター、介助のボランティア、スタッフら90人が参加した。

 また、この催しのために、7年前から栗田湾に面した校内を開放している府立海洋高校は、生徒と教職員合わせて30人が応援したが、福本清校長は「生徒たちが『共生』のこころを学ぶ機会になっている。障害のある方やボランティアの皆さんと接して、素直に喜びを感じているようだ」と語っていた。