ともに生きる・福祉のページ
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寄り添う傾聴ボランティア(2007/03/20)

お年寄りの不安和らげる

写真  末期がんの人や認知症のお年寄りなどに寄り添い、話をじっと聴く、傾聴ボランティアが、静かに広がっている。自分のこれまでの暮らしや家族、過去の思い出などを話すうち、お年寄りらは気持ちが落ち着き、表情が穏やかになってくる。病室や老人ホームで孤独な生活を余儀なくされていた人たちも、定期的に訪れるボランティアを心待ちにするようになるという。傾聴ボランティアグループ「京都PANA―ALC」(代表・安井潔さん)は、専門的な講座を開き、ボランティアの養成に力を入れている


養成講座も16回

 京都市下京区の京都回生病院の病室。伏見区の大平一美さん(75)は、脳梗塞(こうそく)の後遺症で入院している女性を尋ねるようになって4年目になる。初めは、家庭や過去の思い出を話してくれていたが、昨年からは言葉が出なくなった。現在は月2回、病室を訪れても、もう患者の手をそっとにぎるだけ。手をとり、耳元で「来ましたよ、どうですか」と静かに話しかける。大平さんは「話はできなくなったけれど、手の動きを通して、喜んでもらっている気持ちが伝わる」という。

 大平さんは「京都PANA―ALC」のメンバー。傾聴ボランティア養成講座の受講者の一人だ。同講座は、代表の安井さんが2001年から始めた。大手電機メーカーの役員だった安井さんは、定年退職と、糖尿病による入院を機に、ボランティア活動に関心を持った。

 その中で、村田久行東海大助教授(現在、京都ノートルダム女子大教授)の傾聴に関する話を聞く機会があった。会社では営業一筋、命令型の仕事人間だっただけに、「聴くことが援助になる」という傾聴の考えに驚きを覚えた。初めは半信半疑だった安井さんも、末期がんの人などの話に耳を傾けるうち、患者らの表情が変わり、元気が出てくる様子を経験した。「じっと話を聴かせてもらう。それだけで不安や孤独感が薄れ、安心される」と、傾聴の効果を話す。

 指導者としての講習を受講後、始めたボランティア養成講座は、現在16回目。すでに約130人が受講した。今年1月から始めた第16回講座は8人(男2人、女6人)が学んだ。カリキュラムは安井さんの講義と演習、病院や老人ホームでの実習。講義では「聴くことは最大の援助」「聴き方で大事なことは、励まさない、否定しない、問いかけない」「反復する」といった聴き方のほか、人間の生き方や生と死などについても学び、話しあう。

 受講者の西京区で民生委員をする辻井初江さん(59)は「実習で話を聴いているだけで、心を開いてもらえることを知った。一人暮らし家庭を訪問するのに役立てたい」という。

 京都PANA―ALCでは、月例会も開いてメンバーの交流も強めている。安井さんは「人の心の中を聴くことは、自分自身を見つめることにもなります。この活動をして私自身が変わりました」と、傾聴ボランティアは人のためだけでなく、自分のためでもあることを強調し、多くの人の参加を願っている。

〔メモ〕京都PANA―ALC(ばな-あるく) TEL・ファクス075(602)7323