ともに生きる・福祉のページ
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子どもイラスト

【出席者】(進行:京都新聞社会福祉事業団の古川令子事務局次長)
オムロンパーソネル京都支店長 久保雅子さん(右)
京都子育てネットワーク代表 藤本明美さん(左)

 生まれる赤ちゃんの数は、ことし上半期にやっとプラスに転じたものの、子どもの数は減り続けている。国や自治体は対策に躍起だが、少子化の傾向は続く。女性が安心して子どもを産み、育てられるには何が必要なのか。 子育てしやすい社会へ向けて、行政や企業、地域、家庭はどう取り組めばよいのだろう。オムロンパーソネル京都支店長の久保雅子さんと京都子育てネットワーク代表 藤本明美さんに本音で話し合ってもらった。

写真 ―2005年の出生率が1・25と、過去最低を更新しました。この現実をどう見ていますか。

久保 私ども人材派遣会社の仕事柄、少子高齢化はマイナスですし、国の経済活力、また年金負担という面からも問題が多いと思います。男女雇用機会均等法が出来て女性の社会進出が進みました。そして最近は仕事と育児の両立支援が企業の課題にもなっています。このように女性を取り巻く環境は変わってきているのですが、周りをみても、2人目を産むにいたってない女性が多くいます。

「産める」世の中に

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藤本 少子化というのは、国の経済・財政面から問題ですが、産みたい人が産めなかったり、産んだ後のことを考えて我慢し、人間らしく生きられない社会は悲しいですね。いま必要なのは、人が幸せに生きる社会をどう作るかという、複合的な世の中全体の仕組みを考え直すことだと思います。そして、結果として子どもを産み育てたくなればいいのではないでしょうか。

―藤本さんは、長く子育て支援に関する活動をされています。具体的にはどのような取り組みですか。

藤本 幼稚園に勤めていたのですが、子どもができて初めて子育ての大変さに直面しました。多くのお母さんも悩みを持っていることを知り、13年前に地域の子育てサークルをつくりました。そのころから各地にその必要性が高まり、応援団として京都子育てネットワークをつくりました。サークルでは、親同士が学びあい、支えあうことで育っていく。そうすると、子どもも人とかかわることで育っていきます。そんなことを実感しています。
 親が育ち、子どもが育つと地域が育つのだと思います。地域力といいますが、それは急につくれるものではありません。親や子がいろんな経験をする中で、力がついていきます。最近、子どもに対する事件が多く、地域の安全管理ということがいわれますが、普段から地域の人と人が交流し、子どもを育てていくことが何よりのセーフティーネットになるのではないでしょうか。

久保 乳幼児期の過ごし方って大事ですよね。

藤本 そうですね、その時期に親も子も仲間と出会い、豊かに過ごせれば、本当に幸せだなって思います。

久保 私自身が子育てをしていたころは、子どもはかわいいけれど子育てだけでなく、自分を表現できる場所を見つけたいという思いがありました。いつの時代も子育ては母親の仕事にされがちですが、いまは変わってきました。社内には子育てし、仕事もばりばりしている女性がいます。パートナーや家族、地域など社会の協力を得ながら、そういう女性が少数派でなくなり、会社の中でも、子育てサークルのように、子育てのコミュニティーができればいいですね。

―久保さんの会社では、育児女性の再就職支援事業を始められますね。

女性の再就職支援

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久保 経済産業省のサービス産業創出支援事業に、当社のプランが採択されたのですが、子育てしていて、また働きたいと考えている女性をOAや語学研修などで支援するプログラムです。また親会社(オムロン)は、今年4月に、企業内保育所を作っています。仕事と子育ての両立を、周りもごく当たり前に受け止め、助けていく風土を作り上げることが大事だと思います。

―国の少子化対策が打ち出されています。どう見ていますか。

久保 いろんな制度が整ってきつつありますが、お母さんがどれだけ使えるかどうかです。働く女性に大事なのはやはり保育所です。保育所に入れない現実があり、学童保育も十分ではありません。まずはインフラの整備にお金をかけ、地域の育児力を高めたい。それと、企業でいえば、企業内保育所をつくるとか、育児休暇を増やすことも必要ではないでしょうか。

貧しい少子化対策

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藤本 いまはフリーターが増えるなど、雇用が大変不安定な時代です。若い人の生活基盤が安定していない状況で、子どもを産めというのが無理なんだと感じています。それと、国の社会保障費の中で、高齢者向けは7割もあるのに、子ども向けはわずか4%。少子高齢化対策といいながら、子育てに対する支援は貧しい。子育て中の親も、もっと身近な問題として政治に関心を持たなければと思っています。京都きっずプロジェクトでは前回の衆院選で「選挙に行こうキャンペーン」を行いました。

久保 人にやさしい社会をどう作るかという問題になりますね。企業としても職場の風土を変えていきたいし、派遣の仕事を通して、多様な働き方を提案し、お母さんが自己実現出来るように応援していきたいと思っています。


みんなで「協働」  藤本さん

支援モデル必要  久保さん

藤本さん ―少子化が問題になっていますが、安心して子どもを産み、子育てしやすい社会へ向けて、行政や企業、地域、家庭はどう取り組めばよいのでしょうか。子育てしていく上で、いま考えなければいけない大事な課題は何でしょう。

藤本 最近特に感じているのは、子どもの健全な育ちを最優先に考えなければならないということです。保育園にしても、国や自治体は、待機児童をゼロにするということで施策を展開していますが、問題はその中身です。大人の都合や経営だけを考えた保育ではいけないと思っています。丁寧な、子どものことを考えた保育であってほしいと思うのですが、その内容について子どもは声を出しません。大人が知恵を出し合って保育の質について考え、代弁してやることが大事です。

 それと、子育てサークルはいろんな活動で親同士が育ちあっていますが、サークル活動が有効だとなると、行政は地域に、子育て支援サービスというメニューで、ひろばなど居場所づくりを進めます。それはとても必要なことですが、結果として、お母さんはサービスの受け手となり、自主的な意欲や活動がつぶれていくことが残念です。当事者同士が行ったほうが効果的なこと、専門職や行政でしか出来ないことを見極めて取り組んで欲しいと思っています。

久保 企業で働く場合も、会社の制度に安住するだけではなく、能動的で自分のパフォーマンスをあげていくような人を求めています。そうした行動が周囲の理解を広げていくことで、より働きやすい環境をつくっていくと思います。

藤本 そうしたことが結局、自己肯定感につながるんです。日本人は大人も子どもも自己肯定感が低いといわれますが、自主的な活動の中で、お互いの存在を丸ごと認めながら育ちあっていくことが大事です。

求められる意識改革

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久保久保さん 子どもは社会の宝だといいます。お母さんだけではなく、お父さんはもちろん行政も地域も一緒になって育てていく努力が必要ですね。企業でも、子育て支援、両立支援に積極的な企業ほど、業績が伸びていると最近発表されました。いろんなところで、意識改革が求められているように感じます。

藤本 その点で一番大事なキーワードは、「協働」だと思っています。例えば、行政も企業も、互いに出来ることを確認して協働することで何かが生まれます。市民活動にしても、当事者でないと出来ないことがいっぱいあります。様々な子育て不安を抱えている時に、その悩みは専門職の人に相談するだけではなく、当事者同士が話し合うことで楽になれて、またがんばろうと思えることがあります。そうした当事者の活動を、行政や地域、企業などが協働して支え合う仕組みができればいいなと思います。

久保 協働モデルというような、子育て支援のいいモデルケースがいろいろ紹介されると励みになりますね。企業でも、女性がしなやかに働いているロールモデル(役割モデル)のようなものをつくりたい。そうすることで、後に続く後輩もあの人のように両立していったらいいんだ、あの人のようになりたいと安心感や目標を持てるのではないでしょうか。


コーディネート能力

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イラスト1―子育て支援の情報は多いのですが、お母さん方の悩みに十分こたえられているのでしょうか。

藤本 情報は豊富になり、体制とかは随分出来てきました。でも、コーディネーター能力が不足しています。お母さんがたくさんの情報の中から自分にあったものを選んだり、それぞれの人にあった支援策を伝えられるコーディネーターが必要です。

久保 昔、IT(情報技術)導入が進み始めたころ、情報の入手、発信の手段を持つものと持たないものの間に出来る情報格差が問題になりました。子育ての面でも、地域や、企業風土、情報に格差があるように思います。

藤本 それが子育て格差につながっていきます。そうしないためにも、集まった情報を必要な人に、うまく整理して伝えられるコーディネーターが今とても必要だと思います。

―最後に、子育てしやすい社会へ、ここが重要、こうあればと思われることを。

久保 子育てや出産について個人の価値観はいろいろあってよいと思います。ただ、子どもを通して人間や社会を新たな視点で見られるのはすばらしいことです。子どもの笑い声が聞こえる地域が広がり、生き生きと働き、子育てもできる企業や社会になってほしいですね。私も、一企業からではありますが、そのような取り組みを応援していきたいと思います。

藤本イラスト2 私たちは、人とのかかわりの中で子どもを育て、支えあっています。少子化というのは、子どもを産み育てにくい社会への警鐘と受け止めています。子どもは社会の宝です。子育てを、みんなで支えあっていけたらいいなと思っています。