ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
やすらぎトーク

普通に働き、普通に生きたい 障害ある人の「商い」拡大
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がんばカンパニー施設長
中崎ひとみさん(2009/03/10)



 障害のあるなしにかかわらず普通に生きること、その当たり前のことが何でできひんのか、がずっと思い続けていることです。普通に暮らせるように障害がある人にできるだけ多くの給料を払い続けたい、働くことができる職種を増やし、働く場を拡大したい、そう願いながらやっています。

 今はクッキーの製造販売をやっていますが、最初は他から仕入れて売ってたんです。でも販売で人とコミュニケーションするのが苦手な人がいます。だったら、クッキーを作る仕事を増やそう、そこにその人たちを受け入れよう、そう考えて製造にも乗り出しました。規模を拡大して利益をあげるということだけではないんです。

 ここでは障害のある人もない人も一緒に働いています。全員と雇用契約を結び、みんなで頑張って上げた利益を平等に分け合う仲間であり同僚です。それを支えてるんは「気」ですかね。みんなのやる気と根性ですよ。



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表情は明るい。規模を拡大し働く人をさらに増やす計画だ

《がんばカンパニーでは50人ほどが働いている。今期の売り上げは昨年来の不況のため下がったが、1億3500万円を見込む。障害のある人の月収は1人平均12万円近く、その高さで国内はもちろん韓国からも注目を集め、視察の応対に追われる毎日だ。多い人は20万円ほどになり、親を扶養している人もいる》

 最初からこうではなかったんです。売価の3倍近いコストをかけて商品を作っていたときもありました。実家の田畑を担保に借金して赤字をしのいだことも…。でもそれが転機になりましたね。頑張って利益を上げんと給料は入ってこないという当たり前の実感をみんなが持ち始めたと思います。

工夫の積み上げ大切

 でも特別のノウハウがあったわけではありません。障害があればできないことは多いのですが、一緒に働きながらよくよく見ていたら、ああこういうことの方が向いているなとか、道具などを工夫すればできるようになるなとか、そんなことが分かってきます。できないことではなく、できることを日々発見していく、それを息長く積み上げていく。

 給料は時間給にして、長時間働き続けられない人が短時間でも働けるようにしました。いろいろ工夫して、できなかった人ができるようになると周囲もその人を当てにします。本人は働きがいと喜びを感じて責任感が出てきます。技術も向上します。

 すると「いてもいなくてもいい人」がいなくなります。そうやっていい循環をつくると業績は上向いていきました。

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働きやすいように、その人だけのために工夫をこらすんです(写真・遠藤基成)
《がんばカンパニーで働く人には障害のある子を持つお母さんが何人かいる。中崎さんもその1人だ。自分が死んだときこの子はどうなるのか、ふびんでしかたがなかったという。つらいことはすべて自分のせいだと思い詰め、一緒に死にたいと何度も琵琶湖岸に行った。離婚も経験した》

 同世代の脳性まひの女性に出会って私は変わりました。まひはあるけど自分でやりたい人生を切り開いていく、不当なことには大きな声を上げて抗議する、当たり前に生きようとするその姿に救われました。

 19年前にここの前身の「今日も一日がんばった本舗」で、ヘルパー制度のないころに自らボランティアを集め、一人暮らしをはじめて恋愛結婚し、家庭を築いた脳性まひの門脇謙治さん(故人)と出会い、私も普通のことを普通にやれるために頑張ろうと決心しました。当時は世の中のことも、商売のことも分かりませんでしたが、若さとやる気だけはありました。

《中崎さんはその後、喫茶店を開くなど障害のある人の働く場を確保することに一貫してかかわってきた。がんばカンパニーは、「売り手良し、買い手良し、地域(世間)良し」の近江商人の伝統を受け継ぎながら、「商いでノーマライゼーションを掲げている》

囲い込む福祉脱却を

 ここのような場所がなくなるのが理想ですね。これまでは囲い込む福祉だったと思うんですよ。日常生活で障害のある人にあまり出会わないのはおかしい。存在しているはずの人が見えない社会になっている。会社に行っても商店に行ってもどこに行っても出会うのが自然なはずです。

 ここでやったように時間をかけてきめ細かい工夫をすれば、どこでも障害のある人が働けるようになると思います。そんな商いのノーマライゼーションが進めばここは不要です。それを夢見ています。「商い」には「飽きない」をかけてるんですよ。飽きることなく粘り強く頑張ります。

なかざき ひとみ
1964年滋賀県生まれ。県立水口高校卒業後、介護職などを経て障害者作業所「今日も一日がんばった本舗」へ、95年からがんばカンパニー施設長。
大津市の社会福祉法人「共生シンフォニー」常務理事。