ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
やすらぎトーク


京都から出でよ、元気人たち 支援したい社会起業家
写真
ちゃぶ台を囲んでのKSENの会合(京都市中京区、カスタくんの町家)


KSEN会長
川本 卓史さん(2010/03/16)



 「KSEN(ケーセン)」て何のことって思われるでしょうが、これは「京都ソーシャル・アントレプレナー・ネットワーク」の略なんです。2004年に発足しました。

 社会起業家とか社会企業家とか言われるソーシャル・アントレプレナーは、貧困とか福祉とか社会的課題の解消をめざして、ビジネスの手法を生かして革新的な事業を立ち上げ、社会をよりよい方向に変えていこうとする人のことです。

前例がない? 面白い

 バングラデシュの大学教授だったムハマド・ユヌスさんが、農村の貧しい人たちのために、事業目的の少額融資を無担保で行う仕組みをつくり、06年にノーベル平和賞を受賞してから一挙に認知度が上がりました。営利本位の社会を大きく変える可能性を秘めています。

 私はそのような人を「元気人」と呼びたいのです。彼らの嫌いな言葉はお役人の好きな「前例がないからだめ」ですよ、「前例がない? こりゃ面白い、やってやろう」と率先して手を上げる元気人がソーシャル・アントレプレナーです。

《KSENは、ベンチャー企業の経営者、NPOなどの市民活動を支援する人らが運営委員になって活動している。米国のNPO活動家を招いて東京と京都で講演会を企画したり、「かんさい元気人リレートーク」と銘打って先進的な社会的事業に取り組む人を招いて話を聞く会を京都市内の町家などで開いている。会の参加者は学生から70歳までと幅広い》

 KSENは小さな組織ですけど、横へのネットワークを広げて志ある人を応援していきたい。夢は元気に大きく、「京都から社会起業家の波を」がキャッチフレーズです。

肩書なし、「さん」付けで

 「会員」という発想はなくて、誰でも出入り自由、絶対にお互いを肩書で呼ばない、「さん」で呼び合う。縦ではなく横のフラットな組織にこだわっているのです。これは自由な発想とこれまでにないことに取り組む精神を育てるために大切なことだと考えています。

 社会起業家になる、NPOなどで働く、就職した企業の社会貢献活動を進める、少なくとも社会的起業への関心を持ち続ける、そんないろんな人たちとつながりながら社会の理解を深めていきたいのです。

《川本さんは6歳で終戦を迎えた。父の仕事の関係で転居した広島で家族は被爆、父は亡くなる。60年安保闘争の学生時代を経て、リベラルな行風だった当時の東京銀行に入り、外国生活も長い。退職後は宇治市の京都文教大学の教授となり、社会貢献に関心を持つ若い人材を育てる現代社会学科を新設する責任者となった》


「元気人を応援する文化、土壌を京都からもっと広げていきたいのです」
(京都文教大 写真・遠藤基成
 戦後の貧しさのなか、母は5人の子どもを働きながら育てました。大変な苦労でしたが、母の周囲には女学校時代の同級生はじめ、助けてくださる人もまたたくさんおられました。その助け合いの姿が心に残りました。社会起業家精神に関心を持つ原点のひとつですね。

 銀行員のころは、日本では企業戦士なんていわれて、経済成長のためにしゃにむに働くのが当たり前という風潮でしたが、私が生活したニューヨークやロンドン、シドニーは違っていました。

 仕事、家族、地域社会、そして自分、うまくバランスをとるライフスタイルが新鮮でした。日本人学校運営など、ボランティアをしながら、人生は仕事だけじゃないよ、ということを実感しましたね。

《KSENがスタートしたころ、まだ社会起業家は知られていなかった。川本さんや運営委員もここまで続く確信はなかったという。5年の節目を迎えたのを機に、これまでに参加した人たちの思いを伝えようと、近く活動報告書をつくる。川本さん自身も今月末で大学教授を退き節目を迎える》

 少しずつですが、京都や関西で事業を起こして頑張る人の存在を伝えて知ってもらうことは出来たのではないかと思います。若い人の社会貢献への関心は高まっています。彼らにもっと社会起業家精神を知ってほしいと思ってやってきましたが、中にはこれから社会起業家をめざそうという人も出てきています。

 これまで広げたネットワークを生かして、そういう人たちをどこまで支えられるか、KSENの課題だと思っています。京都からの発信は、外国はじめ多くの人に興味を持ってもらえますし、京都のブランド力の大きさを感じます。大学に来て12年間生活した好きな京都からいい波を起こしたいですね。



 (来月からタイトルが「この人と話そう」に変わります)



かわもと たかし
1939年東京生まれ。東京大学法学部卒。日本エッセイストクラブ会員。
著書に第19回紫式部市民文化賞を受けた「折々の人間学 京都で考えたこと」(西田書店)などがある。