2021.12.27
2021.12.27
「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。
ACT―K主宰・精神科医 高木 俊介
雨は降り続く/星の涙のように/雨が語りかける/人間はなんてもろいのだろう
異国の内戦に巻き込まれて死んだエンジニアに捧げた曲、スティングの「フラジャイル(こわれもの)」。アフガニスタンで殺された中村哲さんにも通じる。雨が争いの血を洗い流しても、世界に傷は残る。
この2年間は、人間がいかにもろい存在であるかを見せつけられてきた時間だった。多くの人がこの厄災で亡くなったが、もろかったのは、人の肉体だけではない。もろかったのは、人がつくるこの社会もだ。
2年前、世界に新しい死の影が差し、ひとつのウイルスが忽然(こつぜん)と現れた。皮肉にも死を運ぶそのウイルスは、王冠(コロナ)という名がつけられていた。
その王冠の下に人はひれ伏し、中世に後戻りしたかのように、都市は城門を閉ざした。人は人を、互いに汚れでもあるかのように遠ざけた。最新の科学技術が他人の吐く息に汚れの印を見いだした。生身の人の交わりは、野蛮な動物の行為であると言うかのごとく。
老い先短い老人が子や孫に会えず、親しい人の死を悼む儀式は禁止され、子どもらはじゃれ遊ぶ経験を奪われ、若者はその精神と肉体の盛りを封印された。
国家は自国民を守ることを優先し、高価なワクチンを先を争って確保する。他者への思いやりと言いながら、手を洗う水もない国の人々のことは無視だ。科学者は黙示録を携えて破滅を予言し、マスコミの伝道師たちが喜々としてそれをばらまいた。政治家はウイルスとの「戦争」だと言って従順を強い、人と人、国と国はますますいがみ合う。
2年間で多くが失われた。なじみだったくつろぎの空間。生身の人同士の支え合い。そしてその背後でじわじわと増える失業、自殺、貧困、家庭崩壊。ウイルスが消えても、世界に傷は残る。人のつくる社会は、なんともろいのだろう。
新たな年にこそ、私たちは見つけることができるだろうか。このもろい私たちとその社会の再生の道を。
たかぎ・しゅんすけ氏
2つの病院で約20年勤務後、2004年、京都市中京区にACT-Kを設立。広島県生まれ。