ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

歌って笑って聴いてもらって

関西大教授 所(ところ) めぐみ


母の鼻歌が止まらない。コロナ禍で参加できなくなっていた月1回の歌の会に復帰したのだ。再開されていても参加できないでいた。コロナ禍の間に本人は歩行器なしでの外出が難しくなり、また父が寝たきりになり、介護や入院で、月に1回であっても参加をあきらめてしまっていた。

主催者の方から何度かお声がけをいただき、復帰を決めた。もともと母は歌うことが好き。ここで人と会い、話したりできる。しなくなっていた「おしゃれ」も戻りつつある。歩行器では傘がさせないと、会の日の天気予報を気にするので、全身覆う雨がっぱを急きょ通販で買い送ると、早速それを着て、雨の中出かけたようだ。歌の力、人の力、何だろう。母を元気にしているのは。

実は私自身も最近歌っている。週に1回のオンラインでのボイストレーニング(ボイトレ)。ジャズ、ボサノバなど。先生は東京。生徒は全国各地から参加。1回1時間ほどのレッスンは、毎回ウオーミングアップから始まる。声を出す前に、体や顔を動かしたりマッサージしたりする。全員が顔の筋肉を柔らかくする変顔が画面に並ぶ光景は、笑ってしまう。

仕事等の都合で参加できないときは、レッスンの録画を見て練習することができる。そして4カ月後のパーティーでは思い思いの衣装を着て、対面で披露した。楽しすぎる。

コロナ禍、対面で集まって歌を歌うことが難しかった間でも、次善の策としてオンラインで集まって歌や楽器を演奏する人たちもいた。その一方で、ボイトレなどのオンラインレッスンは、コロナ禍を経て、参加のしやすさなどがあり、むしろ一定定着した部分もあるのではないだろうか。正直、音はそんなによくない。でももともと上手に歌いたくて集まったメンバーではない。下手な歌でも先生は何か見つけて、褒めてくださる。凝り固まった心や身体をほぐし、美活にもなっている。


ところ・めぐみ氏
1967年生まれ。同志社大文学部社会福祉学専攻卒。関西大人間健康学部教授。専門は地域福祉方法論、福祉教育。