ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

「ケアメンいごっそう」と「模範嫁」

立命館大教授 津止正敏



「ケアメンいごっそう」―高知県の男性介護者の会だ。代表の江西一郎さん(81)によれば、土佐人らしく頑固で反骨精神を持っていこうと会員みんなで名付けた。江西さんは大手電池関連会社(本社・京都市)の元営業マン。関西在住だったが、定年後に母の介護のためにUターン帰省した介護者OBだ。

いごっそうの会は男性の介護実態を把握し支援策を訴えようというビッグなプロジェクトを立ち上げている。今年5月から協力要請のために県内の介護者の会や行政、地域包括支援センター、ケアマネジャーなど関係者をくまなく訪ね歩いたと聞いた。四国八十八カ所遍路に比べりゃ苦でもない、と車を走らせた甲斐もあって、調査票の回収もデータ入力もほぼ完了。私たちも加わっての分析作業を待つばかりとなった。

調査が縁で「こうち男女共同参画センター」との付き合いも始まった。センターとの共催で調査報告を主題とする講座を開催することになったのだ。打ち合わせに出向いた際にいただいた広報紙に載った資料に目が行った。センターが発行していた『模範嫁を訪ねて』という調査報告書だ。県内の有志女性が、長年義父母を介護してきたことで県から表彰された嫁たちに聞いた話を分析したもので、2001年に発行された。

同種の制度は全国各地にもあったようだが、同県では1970年に始まり、86年から「優良介護家族」に名を変えて93年まで続いた。興味深くてこれら関連資料の探索を江西さんに託したら、すごい話が届いた。「家に帰って資料を見ていたら、模範嫁の言葉を見た妻が『私の母も表彰された』と。びっくりです」。本当にびっくりだ。

かつて模範嫁として表彰された義母、実母が認知症になって介護者となった息子。その息子がいま取り組んでいる男性介護者の調査。親子2代にこの国の介護の歴史がギュッと詰まっている。調査結果の報告会は来年2月17日と決まった。乞うご期待、だ。


つどめ・まさとし氏
1953年、鹿児島県生まれ。立命館大学教授。大学院社会学研究科修士課程修了。
京都市社会福祉協議会(地域福祉部長、ボランティア情報センター長)を経て、2001年から現職(立命館大産業社会学部教授)。2009年3月に「男性介護者と支援者の全国ネットワーク」を発足させ、事務局長を務める。著書に『ケアメンを生きる−男性介護者100万人へのエール−』『男性介護者白書―家族介護者支援への提言−』、『ボランティアの臨床社会学―あいまいさに潜む「未来」−』、『子育てサークル共同のチカラ−当事者性と地域福祉の視点から−』など。