ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

誰かを支え、支えられ
地域でつくる「食堂」

川ア (かわさき)敦子(あつこ) さん


 誰もが来られて、何をしてもいいし、しなくてもいい。働きたければ働いてもいい。食品ロスを減らし、支援される側にもする側にもなれる―。地域のみんなでつくる食堂が、彦根市河原1丁目の花しょうぶ通り商店街にある。3月に開店した「みんなの食堂」。フードバンクや地元企業などから余剰食品の提供を受け、「1日店長」が調理して食を提供する。コーディネーターの川ア敦子さん(54)の思いがつまった居場所だ。


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みんなの食堂を切り盛りする川ア敦子さん。食事をする利用者と話をするのも楽しみの一つだ(4月16日、彦根市河原1丁目)
 「ここは、子どもも大人も、関わる全ての人の安全基地。生きづらさを抱える若者、孤食を寂しく思うお年寄りや学生、キラキラすることに疲れたママなど、誰が来ても少しずつ幸せになれる場所になればうれしいですね」

 運営するのは、川アさんが仲間と立ち上げNPO法人芹川の河童=かっぱ=(上田健一郎理事長)。主に木、金、土曜日(午前11時〜午後3時)に開店し、地元住民3人が順番に「1日店長」を務めて調理した定食を700円で提供する。利用者に、いつか誰かが食べる食事代とNPO法人の運営にあてる「恩送り券」(1枚1000円)を購入してもらい、代金を払えない人がその券で食べられる仕組みもある。「恩送り券」をもらった若者が店の手伝いをするなど、みんなの力で店が回り、1日10〜60人が利用している。4月下旬からは、毎日開店して持ち帰り弁当のみで対応している。

 川アさんは保育士の資格を持ち、障害者施設で経験を積み、放課後児童クラブの運営などを担ってきた。ひきこもりや生きづらさを抱える若者たちと出会い、彼らの「働きたい」気持ちを知って、スタッフとして雇用もした。同時に、「誰にも会いたくないカフェ」と名付けた若者サロンを開催。その中でわかったことは、ひきこもりの人たちは、支援されるだけじゃなく、誰かの力になりたいと思っていることだった。

 「『あなたを支援する場所』と言われれば、ひきこもりの若者は来ない。そうではなく、誰もが集えて役に立つこともできる場を、地域の力でつくりたい」。そんな考えを伝え歩く中で、同商店街や住民らが賛同し、食堂の実現につながった。

 多くの子どもや若者と出会ってきた川アさんは、いつも自分に問うている。それは、「いい気になっていないか」ということだ。「『かわいそうな子を助けたい』『私がいなければ』という気持ちは、上から目線で自己満足だということを忘れないように。それが、自分の活動のベースです」

 みんなの食堂は「誰かの役に立ちたい」という自分の思いをかなえてくれる場所だと、実感する。「地元の人や食品提供者さん、若者たちがいてくれるから、やりたいことができる。みんなちょっとずつ誰かのためになり、誰かの世話にもなる。私も、支援されているんです」。生み出しているのは、支援する人・される人という概念を超えた、新しい地域福祉の輪だ。

 (フリーライター・小坂綾子)