ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

“ 誰か” のために奏でる
音楽で地域を元気に(20/09/15)

西野 にしの桂子けいこ さん


 音楽は、時に人々の生きる力となり、音楽には地域を元気にする力があるー。そんな思いのもと、福祉施設での演奏やサロン開催などで音楽による社会貢献に取り組むNPO法人「音の風」(京都市東山区)。代表を務めるのは、オルガン奏者でもある西野桂子さん(53)だ。「音楽活動は、実は地道な努力の積み重ね。自分のためだけにやり続けるのは難しい時も、誰かのためならエネルギーがわいてくることって、あるんですよね」


写真
音楽を通して地域を元気にする活動に取り組む西野桂子さん(右から2人目)=2019年1月、京都市左京区 提供写真
 2003年にNPO法人を設立し、活動を始めて17年になる。最初のきっかけは、楽器メーカーで働いていた時に、知り合いから特別養護老人ホームでの伴奏を頼まれたことだった。当時は楽器が売れず、音楽業界全体に元気がなかった時代。周りの素晴らしい演奏家が廃業に追い込まれる状況を憂い、もんもんとしながら、無理やりニーズを生み出す日々だった。

 訪問先のお年寄りたちは皆黙って過ごしていたが、演奏が始まると、その瞬間から笑顔になり、背筋がピンと伸び、手拍子を始めた。突然元気になるお年寄りを目の当たりにし、驚いた。「音楽を演奏しているだけなのに、これほどまでに楽しんでもらえるのかと。終わると涙を浮かべ、『もう帰るの?』『また来てね』と言ってくれる。音楽が本当に必要とされている場があると思いました」

 大阪で音楽による社会貢献の活動をするNPOに参加してノウハウを教わり、音楽家や楽器店などの仲間とともに地元京都で法人を設立。ボランティアの養成講座を重ね、仲間を増やしていった。

 活動では、地域活性化をキーワードに、福祉施設や地域イベントに音楽ボランティアやプロのアーティストを派遣するほか、安価で歌や楽器のレッスンをする音楽サロン事業などを展開。会員は20代から80代まで、100〜120人ほどで毎年推移している。

 「上手な人ばかりではないけれど、聴いている人に寄り添って手拍子したり、一緒に歌ったりする役割の人が実はとても重要。活動しているうちに面白くなって技術を習得していく人もいます」

 華やかに見える音楽活動だが、収益が少ない中での人材育成やマネジメント面は大きな課題だ。手を広げすぎて2年前に過労で倒れ、本当に大事なことは何か考えた。「自分が音楽業界を引っ張る意気込みだったけれど、代表が必死で旗を振らなければいけない状況は音楽が浸透しているとはいえない。目指すべきは、地域の音楽愛好家が自発的に広げてくれること」

 等身大で活動を継続するため、今年に入って事業の縮小を決断。また、新型コロナウイルスの影響で事業の多くが休止に。挫折を味わったけれど、あきらめないメンバーたちがリモートでの音楽サロンを企画・実現してくれて少しずつ活気が戻り、「私は一人じゃない」と肩の力が抜けた。

 仲間の言葉やアイデアに支えられていることを実感し、あらためて思う。「本当に大事なのは続けること。地域から何を求められているのか原点に返って考え、目の前の一つの事業、一つの施設での音楽活動を大切にしていきたい」

 (フリーライター・小坂綾子)