ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

障害者らとコーヒー作り
目指す地域ブランド化 (20/11/23)

井上 いのうえまなぶ さん



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コーヒー豆の選別作業を見守る井上学さん(右)=10日、久御山町佐山・フォーライフ久御山
 工場が立ち並ぶ京都府久御山町の一角に、コーヒーを焙煎(ばいせん)する作業場がある。ここから生み出されるのは、障害のある人たちの就労支援事業に取り組むNPO法人「京都フォーライフ」のオリジナルブランド「フォーライフ珈琲」の商品だ。法人の代表を務めるのは、井上学さん(56)。地域の企業の協力を得て事業所を始め、2019年からコーヒー事業に取り組んでいる。

 「コーヒーの知名度が上がり、自分の仕事が給料に結びついている実感を持ってもらえているとうれしい。利用者さんが自信と誇りを持って働ける、そんな事業所でありたいと思っています」

 もともとは、宇治市内の法人で障害のある人の就労支援に取り組んでいた井上さん。08年に退職して京都フォーライフを立ち上げ、翌年に法人格を取得した。独立のきっかけは、利用者が自ら命を絶ってしまったことだった。「自分の障害を受容できず、うまく周囲ともなじめない方で、企業への就職を望まれていたが難しかった。けれど、誰であっても何らかの仕事ができる。民間企業への就労が困難な人も雇用契約を結んで働ける場所をつくりたかった」

 地域のクリーニング企業の協力を得て、知的障害や精神障害のある人を対象に事業を開始。洗いあがったタオルをたたむなどの作業で、障害のある人に適していたが、工夫次第でもっと多様な仕事ができる可能性を感じるようになった。そこで、紙箱作りなどの商品パッケージ事業も始め、さらに法人内で完結できるオリジナルの仕事も生み出せないかと模索。ちょうど社会貢献を考えていたコーヒーチェーンの葉山コーヒー(横浜市)が監修に協力してくれることになり、コーヒー事業を開始した。

 現在は、宇治市と久御山町でクリーニングと紙器加工、コーヒーの就労継続支援A型3事業所を運営し、地域企業での就労の支援にも取り組み、利用者は計88人、支援員は20人。そのうちコーヒー事業の利用者は12人で、主な仕事は、痛んだ豆を手作業で取り除くハンドピックだ。「やるからには本格的に」と職員2人に葉山コーヒーで修行してもらい、久御山町のふるさと納税の返礼品として活用されるなど、少しずつ注目を集めている。

 「思いが一つになって、活気が出てきている。福祉施設が作っているから『素人のコーヒー』と見られがちだけれど、そうではなく、高品質のコーヒーとして知ってもらいたい」。この秋からは、「宇治茶の街の珈琲」プロジェクトを立ち上げ、近隣で自家焙煎するコーヒー店と手を携えて新しい地域ブランド化を目指している。

 「工賃が低くなりがちな人でも、うちの事業所では収益性の高い仕事に対応できている。この人ならこの程度の仕事だろう、と思ってしまうのか、そうではなく、収益性の高い仕事に挑戦できる環境を整えるのか、大事なのはスタッフ側の意識だと思っています」

 障害の重い人も多いが、利用者の話を聞き、一人一人が力を発揮できるように支えている。「苦労はあるけれど、夕方の終業時刻に職場を回ると、仕事をやりきった表情の利用者さんの姿が見られる。一番やりがいを感じる時間です」
(フリーライター・小坂綾子)