ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

孤独な親も支えたい
地域での子育てを支援(21/02/22)

宇野 うの明香さやか さん



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フードパントリーで届ける食料を準備する宇野明香さん(9日、南区唐橋・ハピネスカフェ)
 京都市南区の東寺の近くに、にぎやかなのぼりがたつコミュニティーカフェ「ハピネスカフェ」がある。オーナーの宇野明香さん(39)は特例認定NPO法人ハピネスの理事長で、子ども食堂の開催や、生活に困っている人に無償で食料を届ける「フードパントリー」の活動などに取り組む。目指すのは「みんなで子育てする地域」。カフェは、そのための拠点だ。

 「だれも頼れない環境での子育てはすごくしんどいし、虐待のニュースを聞くと、お母さんの気持ちもわかる気がするんですよ。でも生育歴って影響が大きいので、自分にできることをしたい」

 2児の母で、家庭で暮らせない子を養育する里親でもある宇野さん。子どもに関わる仕事がしたいと思った原点は、幼少期にある。再婚家庭で育ち、両親が夜中に働く日々にさみしい思いをし、親の代わりに借金取りにお金を渡したり、水道や電気が止まったりする生活が当たり前だった。お酒を飲んで暴れる義父に学費を出されるのが嫌で高校に行かず、アルバイトで生活費を稼いで妹と暮らした。

 もともと子ども嫌いだった宇野さんの転機は、結婚と出産だった。高卒認定を取って正社員になり、夫や夫の家族と過ごして母親になると、「子どもって大事な存在なんだ」と実感した。同時に、自分の幼少期を思い出し、そわそわした。「私みたいな育ち方をしている子はいっぱいいるはずだと思うと、気になって仕方がなくて」

 2016年にNPO法人を立ち上げて子ども食堂を始め、翌年には会社を退職。「子ども食堂のご飯を調理できて、出会った子にさらなる支援ができる空間が必要」と考え、カフェをオープンさせた。子ども食堂と勉強会はそれぞれ月2回、近隣の唐橋文化教育会館で催すが、もっと支援が必要な子には、カフェで個別支援もしている。

 子ども食堂には地域の子がたくさん集まり、家に居場所がなくてつらい思いをしている子も訪れる。「最初の2年くらいは何も話さなくて、3年目になってようやく『家に帰りたくない』とポロッとこぼし、泣きながらしゃべり出すような子もいる。話を聞いて、また来週もあるし、カフェでも会えることを伝えると、納得して帰っていく。そういう時は、やっててよかったなって思いますね」

 20年4月からは、フードパントリーの活動も始めた。新型コロナウイルスの感染拡大で1回目の緊急事態宣言が出た頃で、子ども食堂あてにシングルマザーから一通のメールが届いたことがきっかけだ。収入がなくなるかもしれないという不安を訴える内容だった。これを機に、子ども食堂用にスーパーなどから譲り受けている余剰食品の野菜やお菓子をとりわけ、週1回、気になる母子家庭なども含め3家庭に配達している。

 「今後は、お母さんたちとの接点も増やしていきたい」といい、課題は、NPOの組織をしっかり育てること。「世の中的にやった方がいいことを見つけると、すぐにやりたくなるし、アイデアが浮かぶんですよ。仲間と一緒に、一つずつ形にしていきたいですね」
(フリーライター・小坂綾子)