ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

定期カフェ つながり大切に
孤立少女の居場所づくり(21/04/13)

北川 きたがわ美里みさと さん



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「わかくさカフェ」の参加者たちと談笑する北川美里さん(左から4人目)=6日、京都市左京区・ニニルーム
 火曜日の午後。京都市左京区の宿泊施設「ニニルーム」に、少女や若い女性、スタッフらが一人、また一人と集まってくる。困難を抱えた少女らとともに歩む京都わかくさねっとが週1回開く「わかくさカフェ×ニニルーム」。お菓子や軽食をほおばりながら悩みを話したり、ゲームをしたり、温かい時間を過ごす。

 「孤立する少女とつながる試みです。虐待を受けたり、否定されたりして生きてきた少女の居場所を一緒につくり、彼女たちの思いに寄り添って応援する。私たちにとっても学びが多く、面白い」。そう話すのは、事務局の北川美里さん(56)。少女と過ごし、自身も元気をもらっている。

 京都わかくさねっとの活動は、作家の瀬戸内寂聴さんらによる「若草プロジェクト」に共感して京都で生まれた。罪を犯した少女の立ち直り支援からスタートし、困難を抱えた少女に対象を広げて昨年から居場所づくり。「ニニルーム」と、自立援助ホーム「カルーナ」などの協力で、それぞれの場所で定期的にカフェを開いている。行き場のない少女らが訪れ、元当事者の女性や大学生ボランティア、保護司らが支えている。

 北川さんは広告代理店などで働いていたが、子育てでキャリアを中断しているときに保護観察所の事務作業などを担う内勤保護司の仕事を紹介されたのをきっかけに、更生保護の道に進んだ。少年院や刑務所を出た2000人ほどと出会って知ったのは、小さい頃に虐待などつらい体験がある人が多いこと。その後の保護司の活動で、薬物依存に陥った少女の立ち直り支援を担当したが、頼れる親もなく仕事にも就けず、男性との関わりから再犯してしまったことが、居場所づくりへの原動力となった。「犯罪は、自殺や自傷、依存症と根っこは同じで、生きづらさの表れ」。頼れる人があると立ち直れる例を見てきて、つながりの重要性を実感した。

 ニニルームでの活動では、少女に軽食や飲み物、生活用品を提供するほか、昼寝ができる部屋を準備する。「安心できる場所があると意欲がわくし、自分を認められれば、人の気持ちや社会のことも考えられるようになる」。抑圧され、多くをあきらめてきた少女たちの「食べたい」「やりたい」という気持ちを引き出し、その希望をかなえるためにスタッフと奔走する。

 回を重ねるごとに、少女たちに成長や変化が見られる。心理の専門家によるワークを取り入れると、人の意見を尊重しながら自分の意見を言えるようになった。また、3月に参加した国連犯罪防止刑事司法会議「京都コングレス」では、大学生と英語のパネルを作り、海外からの参加者に積極的に活動を紹介するなど生き生きとした姿を見せた。

 入り口支援と寄り添い支援に取り組み、課題は出口支援だ。少女の得意を生かした講座で講師を務めてもらうなど、自己肯定感を高め、自立に向かう仕組みづくりを模索する。「困難を抱えた子は心や体の波があるけれど、傷ついた分優しく、すてきなところをたくさんもっている。そんな彼女たちを、社会につなげたい」
(フリーライター・小坂綾子)