ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

硬球 手縫い補修も軌道に
「いろんな人 ともにある」を(21/06/28)

小畑 治おばた・おさむさん



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「ゆめハウス」で補修中の練習球を手に「エコボール活動は、赤い木綿の糸で縫い直す根気のいる作業」と話す小畑治さん(22日、宇治市宇治)
 「一番大事に思っているのは多様性。いろんな人がいていいんやで、ということ。それが認められる社会であってほしいと常に思ってます」。宇治市内で「ゆめハウス」「みっくすはあつ」の2カ所で、障害者の就労継続支援事業を展開するNPO法人「就労ネットうじ」の小畑治理事(52)は言い切る。

 同法人には約80人が登録し、同市内の公園清掃やお菓子、手作り品の製作などを行っている。法人の理念は「ともにある」。小畑さんは「現在の社会は、社会的保障を含め『ともにない』社会じゃないか。それを『ともにある』状態にしたい」と説明する。

 ユニークな作業が「エコボール」活動。高校の野球部や少年野球クラブから練習で傷んだ硬球を預かって、手縫いで補修して返す。12年前、同市在住の元プロ野球選手、大門和彦さんが「昔は自分たちで補修したものだが、そちらで作業がやれるか」と持ちかけてくれたのが縁で始まった。

 赤い木綿の縫製糸が切れて中身が見えるほど傷んだ練習球を縫い直し、丁寧に磨く。新品に買い替える時代風潮の中、手間のかかる作業だったが、小畑さんらは積極的に取り組んだ。「ゆめハウス」で働く人には、手に持って一定のリズムで一定の縫い方をする根気のいる作業がマッチした。

 1球50円で縫い直した球を直接チームに届けた。指導者からは「傷んだ球を補修して使うようになって、選手らは練習後、ボールや道具類を大事に扱うようになり、手抜きのような振る舞いが減った」と好反応を得た。評判になり、全国から問い合わせが入るように。

 各チームの地元の作業所が引き受けた方が「エコボール」の趣旨に沿うと呼び掛けたら輪が広がり、今では北海道から九州まで41事業所が年間2万から3万球を1球100円で補修し、野球少年に届けている。日本プロ野球OBクラブがオフィシャルサポーターになり、障害者就労支援事業として修繕糸の一部を補助している。

 昨年来の新型コロナウイルス感染拡大の影響で同法人も一時は収入が9割減って、利用者の工賃も出せないほどに。2020年度は特に食べ物や販売関係の仕事に響いた。京都府の工賃補填(ほてん)のサポートがあり、法人全体で作業比率を清掃関係にシフトするよう見直し、やっと乗り切れたという。

 「ここには障害の種類や程度でいろんな配慮が必要な人がいます。でも一人一人の働き方があっていい。こんな風に作業所に集まって働くだけでなく、一般の会社・工場で少しでも働かせてもらうことで、当人はもちろん会社や社会にも利益となり、変化していけると信じてます」と小畑さん。

 極論すれば、こういう事業所がなくてもいいような社会を目指したいと言う。職員を束ねる立場だが、「利用者も職員も人それぞれ得手や不得手はあるもの。趣味も含め、多様性を持って生きるのがいい」と言い、自分の生き方の基準も「自分で決めて、自分で動く」。組織も「分散していていい。現場の裁量権の広さが大事だ」と思っている。力まず、気負いもない姿勢が一貫している。