ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

無条件に認められる場を
子の悩み、電話で受け止め(21/07/13)

根本 賢一ねもと・けんいちさん



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チャイルドライン京都の活動で子どもたちを支えている根本賢一さん(京都市山科区)
 秘密は守られ、名前を言う必要がなく、どんなことも一緒に考えてくれる。そして、電話を切りたくなったら切ってもいい―。18歳までの専用電話「チャイルドライン」は、子どもたちのお守りのような存在だ。京都市山科区を拠点に活動するNPO法人チャイルドライン京都の理事長を務めるのは、大学事務職員の根本賢一さん(51)。「家庭と学校が日常生活の場である子どもには、逃げ道が必要。チャイルドラインは、第三の居場所のような存在なのです」

 1986年にイギリスでスタートしたチャイルドライン。国内では全国68団体が活動し、チャイルドライン京都は2000年に始まった。19年度の発信件数は、全国では43万6047件。高校生の年齢の相談が半数以上を占め、主な訴えが虐待と思われるケースも増えている。チャイルドライン京都が受けた着信件数は5810件、そのうち会話が成立したのは1228件だ。

 電話の受け手や支え手は、一般市民。心理学を学ぶ学生や教職経験のある人、子育てを終えた人、傾聴ボランティアをしている人などさまざまだ。京都の受け手ボランティアは現在約40人、受け手を支える人が約10人。毎年秋にボランティアを募集し、講座を開いて活動の魅力を伝えている。

 根本さんが団体に関わり始めたのは、仕事で大学教育のヒントを得るために話を聞いたのがきっかけだった。「こんなにもたくさんの子どもが電話をかけるのか」と驚き、生きづらさを抱える学生たちとのつながりも見えた。それから12年、団体と関わり続けてきた。

 ただひたすらに聴く。それが、チャイルドラインの活動だ。「子どもたちは、自分の話を聴いてもらったことがうれしいのです」。何度もいたずら電話のような「お試し」コールをして、受け止めてもらえることを確認し、自分のタイミングで話し始める子もいる。「涙がとまらなかった」「顔も名前も知らない人だから話せた」「肯定も否定もされなかったことがうれしかった」「自分は生きててええんやって思った」「安心できる場所」…。子どもたちからは、そんな感想が寄せられる。「話すことは、『(手)離す』ことでもある。悩みを打ち明け、悩みが離れていく子もあります」

 昨年理事長に就任し、課題が見えてきた。「活動の基本である子どもの権利条約の理念が、社会に浸透していない」ということだ。「子どもは大人と対等に権利を持つ主体で、社会は子どもの声を聴かなくてはならない。けれど、子どもは守られる客体として見られ、『意見を言うとわがままになる』と思って言えない子もいる」。チャイルドラインの分析では、子どもが大人から無条件に認められていない現状も見えてきた。「コロナ禍で休校になった時も、緊急事態とはいえ当事者の子どもの声を聴いた上での判断なのか、気にかかった。子どもの声を聴かずに子どもを守ろうとすると、大人の押し付けになってしまう。聞くことの大切さを、発信したい」

 子どもたちが安心して話せる場を絶やすことなく、子どもが自らの道を切り開いていくのを支える。そして、子どもの声を聴く姿勢を、社会全体に広げる。チャイルドラインが果たす役割は大きい。

(フリーライター・小坂綾子)

 チャイルドラインは (0120) 99-7777 = 月〜土曜の午後4時〜9時、全国共通。