ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

一市民として面白い社会に
人を生産性で測らない(22/02/15)

木ノ戸 昌幸きのと まさゆきさん



写真
図書館に寄贈した子ども時代の愛読書について語る木ノ戸昌幸さん(1月31日、京都市北区・スウィング公共図書館)
 京都市北区上賀茂にあるNPO法人「スウィング」の拠点施設に、毎日さまざまな障害のある人たちがやってくる。詩を書いたり、コラージュ作品をつくったり、創作活動に取り組む自由な空間。作品は、ときにアートグッズや発行するフリーペーパーにも変身する。これらの芸術創作活動は、名付けて「オレたちひょうげん族」。このほかにも、清掃活動など、狭い「障害福祉」の概念を超えた多彩な市民活動に取り組んでいる。

 「世の中をより良く、より面白く」というのが、スウィング流の社会福祉。理事長である木ノ戸昌幸さん(44)は、「障害のある人もない人も一市民」であることを大事にする。「利用者も職員も、福祉の主体者として、一緒に社会をよくするために動く。障害者福祉サービス事業を使っているけれど、本当なら、そのカテゴリーからも離れていたいですよね」

 人を生産性で測らない組織をつくろうと、2006年に法人を設立。職員約10人、利用者29人が所属し、生活介護事業を行いながら、制度が規定する「障害者」や「福祉」の枠にとらわれない活動を展開する。

幼少期は勉強ができ、学級委員も務め、周囲から評価を得やすい子どもだった木ノ戸さん。だが、「もし評価されなくなくなったら」という恐怖が常につきまとい、社会のものさしに疑問を抱くようになった。大学時代に不登校問題を考える講演会に参加したのをきっかけに、既存の価値観に自分を合わせて生きるのをやめようと決意。「障害のある人に関わる仕事は毎日笑えるよ」という友人の言葉に、「『笑っていたい』という理由で人生を選んでいいんだ」と開眼し、障害者福祉の世界に飛び込んだ。

 スウィングには、さまざまな「笑い」があふれる。利用者と職員が戦隊ヒーローにふんして月1回清掃活動をする「ゴミコロリ」も、バス停での交通案内プロジェクトも、面白がりながら社会貢献する試みの一つ。そこには、成果物やお金をより「速く」「多く」生み出すことを肯定するような文化はない。

 昨年9月には、拠点施設に「スウィング公共図書館」をオープンさせた。利用者が受付を担い、地域の子どもたちや住民がふらりとやってくる。壁一面に約2400冊の本が並ぶが、本を読んでも読まなくても自由。「スウィングを、だれでも利用できる垣根の低い場にしたい。福祉って障害のある人だけのものではなく、みんなのもので、すべての人が幸せに豊かに暮らしてほしい」との思いがある。

 活動を通して目指していることの一つは、「やのに感」の払拭(ふっしょく)だ。「障害者やのに頑張ってる、女性やのに社長、などの表現は、人にラベルをつけて『できない』と決めつけるから生まれるのではないでしょうか」。本当は、だれが上でも下でもない、というのが持論だ。

 夢や目標がなくてはいけないような風潮にも疑問を唱える。「目の前のことをやっていたら、15年前には想像もしてなかった図書館ができた。だから、夢なんかなくても、大丈夫って伝えたい」。その言葉に、多くの人が元気をもらっている。

(フリーライター・小坂綾子)