ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

現場で率先 利用者とともに
みそ作りや創作活動を支援(22/02/28)

藤本 隆志ふじもと・たかしさん



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商品になったみそを手にする藤本隆志さん(京都市右京区)
 京都市右京区にある「みやこ西院作業所」(羽根田晴美施設長)は20年ほど前から製造する手作りの「まごころ」みそで知られる。

 支援員の藤本隆志さん(52)は、みそ部屋と呼ぶ専用の作業場で障害のある利用者らと協力して11月中旬から3月中旬の寒い時期に16樽(たる)合計800`を仕込む。1樽当たり15`の京都府産米を水洗いして蒸し、麹(こうじ)菌をかけてかき混ぜ発酵させて、またかき混ぜ、炊いてミキサーで砕いた大豆15`や塩と合わせ1週間に1樽ずつ詰める。十分寝かせたみそは10月頃から順次製品化していく。

 藤本さんは、4年前から同作業所に勤め、みそ作りを一から覚えた。「仕込み時やその後の温度管理が大切。また麹菌を米にかけるにもコツがある。やりながら覚えました。作業は米の温度を下げないように熱々を手早く満遍なく麹菌と混ぜるんですが、一方で慌てず丁寧に手際よく、も必要。それが発酵に響き、味に響く」と言う。

 失敗したかどうかは寝かせた後でないと分からないので、失敗は許されないが「幸いまだ失敗はありません」。15年勤めた前職の豆菓子製造の時に覚えた「時間と手間をかけるよう心掛け、段々、売り物のまろやかさが増して来たように…」と職人肌を見せ「文字通り手前みそですが」と笑った。

 寒い時期の仕込みだが、温度管理のため作業場は暖房なしで窓を開け、冷たい水で、大きなボールに入れた米や大豆を洗う。しもやけ、あかぎれは常時。衛生面から、ばんそうこうも貼れない。

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利用者とともに、麹菌と混ぜてみその原料とする米を洗う藤本さん(奥)
 さらにここ2年は「コロナ禍」を懸念しながらの作業。「食品製造なので従来から手指消毒など衛生管理は十分気をつけていたんですが、生活面では外出を控え、冗談など無駄口をきかず相互の距離を保つようになって作業風景が少し変わったかな」と影響を語る。

 普段はみそ作りのほか、外部から請け負う各種の仕事も利用者らとともに行う。若い時には人形劇団に所属し、その後も豆菓子会社で働きながらアマチュア劇団で活動。その経験で人とのふれあいの大切さを感じてきた。

 福祉の場で働くのは初めて。「こちらの作業所では土曜日なんかに利用者さんと一緒に創作活動をすることもあるんです。絵を描いたり、音楽を聴いたり。紙芝居を互いに読み合わせたりしたこともあります。私だけが読むよりも面白さが増すかなと思いますし」と話し、作業でも利用者の立場にもなって進めることが大切と思っているという。

 「この職を機に、生産と活動支援の両面をもてることにやりがいを感じています。利用者さんとのコミュニケーションをもっと深めたい」と言い、「豆製品作りと演劇、これまでの人生で培ってきたものを役立てたい、それができる仕事かなと、日々感じています」とも付け加えた。