ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

月2回販売 社会参加に異議
精神障害者工房でパン作り担当(22/05/30)

その あすか さん


写真
出来たてのパンが並ぶカウンター前に立つ園あすかさん(19日、長岡京市久貝)
 屋根越しにあちらこちらの新緑が望める長岡京市久貝の住宅街の一角に精神障害者らの就労継続支援B型と生活訓練事業を担う「やよい工房久貝事業所」がある。その前庭が、第3週の木曜と金曜の午前10時、近隣の人たちでにぎわう。同工房の人気商品である各種のそう菜パンを販売するからだ。玄関横の木製テラスに面した部屋のカウンターに、その日午前6時半から利用者と職員らが仕上げたハンバーガーやサンドイッチ、クロワッサンサンド、カスクートなど多種類のそう菜を工夫したパンが並べられ、購入希望者が、10時の販売前から列を作る。

 1人で5個も6個も注文して受け取り、笑顔で持ち帰る。100以上用意した即売分が文字通り飛ぶように売れ、お年寄りや幼児を連れたお母さんらも毎回入れ替わるバラエティー豊かなパンをあれこれ見比べて購入し、満足げだ。

 15分ほどで行列が途切れたころには、売り切れた商品も出て、ほぼ完売状態。カウンター越しに販売やレジを担当し、後ろの調理場で次々にパンを作り上げる職員と利用者は大忙し。パン作り全般をまとめている支援員の園あすかさん(43)は「とにかく数が多いのと、次々手早く作らないといけないのでたいへん。おかずを挟むバンズやカスクートの整形も難しい」と苦笑する。

 2日間で合計約千個を作り、事業所売店で売るのはその一部。大半は、乙訓地域の官公所や福祉施設からの注文販売で、前の週からパン生地の仕込みなどを始める。園さんは「パン作りは、最終的な二次発酵の調整などが難しい。当日の気温や湿度で発酵具合が変わるから」と言う。

 7年前にパン作りを始めたころは、生地の発酵具合のせいか焼いても上手に膨らまなかったなどの失敗も。「元パン屋をしていた人にボランティアで教えてもらったりして、なんとか商品らしいものが作れるようになった」。その後は、大型の冷凍・発酵機やパン専用の大型オーブンなどをだんだんと整備して、評判の人気商品になったが「パン屋さんではないので…。あくまで利用者の仕事として、工賃の確保が目的です」と冷静に見ている。

 ただ、事業所での直接販売は「近隣住民の皆さんとの触れ合いの機会として、一つの社会参加として利用者にも意義あるもの」だとも思っている。

 10年ほど前、利用者の家族で喫茶店をしている人がいて、工房の仕事の確保として、クッキー類やシフォンケーキなど焼き菓子作り作業を取り入れた。その後、パン作りに進み、パンに挟むおかず作りも習熟して、5年ほど前からは月に一度250個の弁当も注文販売するようになったという。

 一昨年からのコロナ禍で、同工房も「密を避けるのに利用者さんには午前と午後の時差出勤をしてもらったり」、「各種イベントなどへの出店販売ができなかったり」、「工房のクリスマス会や旅行などの行事ができなかったり」と影響はあったが、同工房に勤務して約15年のベテラン園さんは「やれることはしっかりやってきたし」とパンのおかず作りの調理場で、元気よく話してくれた。