ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

困難克服、一緒に考えたい
母子家庭の相談に応じる(22/06/20)

髙井 有紀たかい ゆき さん


写真
母子に向けての食品提供の準備をする髙井有紀さん(右)=京都市右京区・野菊荘
 子どもと母親に安全で安心な住まいと生活支援や子育て支援などを提供する母子生活支援施設が、京都市右京区にある。ひとり親家庭世帯が暮らす「野菊荘」。入居者を支える一方で、2016年から地域の母子に向けたひとり親家庭サポートセンター「こもれび」も開設している。髙井有紀さん(43)は、「コンシェルジュ」の肩書を持つこもれびの専任職員。「ホテルが宿泊者の要望に応えているように、お母さんのやりたいことを一緒に実現しようという思いで支えています」

 野菊荘の前身は、1942年開設の平安寮(のちの山ノ内母子寮)。現在は、配偶者のドメスティックバイオレンス(DV)から逃れた母子などが多く、さまざまな困難を抱えて生活する。職員は、就学前の子と母親を支える母子担当と児童担当に分かれ、生活支援や子育て・就労の相談、子どもの学習支援などに取り組んでいる。

 こもれびは、野菊荘の機能を生かし、地域の母子の困りごとを軽減する狙いでスタート。妊娠期から子どもが成人するまでの期間、支援が必要な家庭の相談に対応する。

 相談対応は、「まずお話を聞かせて」という姿勢だ。子どもの発達不安や不登校、高校大学の学費のことなど、月に十数件ほど寄せられ、入居につながるケースもある。学習支援や居場所づくりのほか、妊娠期の支援や茶道・生花教室、食品提供などにも取り組み、必要な場合は、他機関とつなぐお手伝いもする。

 相談者の要望は、「情報だけほしい」「自分で考えたい」「一緒にやってほしい」など、それぞれ違い、母親の意向を尊重して支えるよう心がけている。

 入職したときは、野菊荘の入居母子担当だった髙井さん。このときの経験は今に生きている。

 最初に担当したのは、朝起きることが難しい母親だった。「ちゃんとしなきゃダメですよ、と責めた結果、気持ちが離れてしまった。子どもを思ってのことでしたが、『正しさ』を押し付ける姿勢がお母さんを追い詰めていたんですね」。大事なのは、起きられない事情や体調に目を向けること。「お母さん、困ってない?」と声をかけ、一緒に考えることだったと気づいた。

 こもれびの相談者には、子育ての悩みをはき出せず、子どもに強くあたったり、職員に強い口調になったりする人もある。「しんどさを受け止めてもらえる環境になかったと、とらえ直すと、お話の聴き方も変わります」

 不安やいら立ちから子どもに手をあげてしまうと悩む母親には、「それはお母さんがしんどいということ」と伝える。「母親は子育てできて当然と思われるけれど、そうではない。一人で抱え込むお母さんに、『責任感が強いところはすごいし素敵だけど、一人でがんばらなくてよい』と伝えられる人が必要ですよね」

 今考えているのは、地域支援でどんなことが求められているのか、ていねいに見ていくこと。「目指すのは、正しさを伝える職員ではなく、お母さんの『こうしたい』を聴き、実現に向けて一緒に考えられる職員です」

(フリーライター・小坂綾子)