ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

「わからないけど」から開始
精神障害者の働き方支援(22/11/21)

宮嶋 優行みやじま まさゆきさん


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「ゲームなどの新しい分野の活動で、利用者の可能性の幅を広げたい」と語る宮嶋優行さん(8日、京都市中京区)
 障害のある人の「働きたい」気持ちを大切に、菓子づくりに取り組む就労継続支援B型事業所「京のちから」=075(468)1130。サービス管理責任者を務めるのが精神保健福祉士の宮嶋優行さん(38)だ。京都市左京区の菓子工房と中京区の作業所を行き来し、利用者の菓子づくりや袋詰めのサポートを担う。「福祉の製品だから、ではなく、しっかり作られた製品として気に入ってもらいたい。能力の高い利用者さんも多く、それぞれの目標や強みに合わせて支援しています」

 事業所の母体は、カフェの運営なども手がける有限会社「グラン・ブルー」。利用者は、精神障害者と知的障害者合わせて7人で、工房と作業所二つの拠点で得意な作業に取り組んでいる。菓子類は、企業のブランド製品を製造するOEM(相手先ブランドによる生産)などの受注が中心だ。

 大学で福祉を学んだ宮嶋さん。さまざまな分野の勉強やボランティア活動を積み重ねたが、わからなかったのが精神障害者だ。「統合失調症やうつ病など、成育環境や背景が人によって違い、気質との複合的な要因もある。この障害は何なんだろう、という感覚でした」。そこで卒業後は精神障害者対象の事業所に入職。2011年にグラン・ブルーに転職した。

 魅力を感じたのは一般企業が福祉の事業所を手がけている点だ。「福祉を前面に出さない福祉をやりたくて」。製品も、障害者が作っていることをアピールせず、あくまでも品質にこだわる。

 利用者とのコミュニケーションは自然体だ。人間関係ができると、「その考え、僕は違うな」と伝えることもある。「全て共感するわけでもないし、考え方はそれぞれ」。大学時代の「利用者のために」という一方的な熱い気持ちも、実際に携わると邪魔になることもあるとわかった。

 ただ、障害のある人は社会的弱者になりがちだ。その背景は見失わず「一人の人」として接する。「精神障害のある人はいまだにわからない存在だけど、『わかる』は当事者しか言えないと気づきました。『僕はわからないけど』から始める。そこが着地点ですね」

 事業所では、新しい試みもスタートさせた。コロナ禍をきっかけに、菓子作りとは違う方向性を模索。電子機器を使った対戦をスポーツととらえる「eスポーツ」にも取り組めるパソコンを5台導入した。ゲーム好きの利用者がいることもあり、できることの幅を広げる試みだ。「支援学校の生徒の進路先は、作業所や清掃などが多く、選択肢が少ない。けれど彼らの将来の夢は、声優やVTuberといった今どきの職業なんですよ。ゲームや動画編集、インスタグラムライブなどもできて夢が広がる、そういう場があってもいいはず」

 現在は余暇活動として、業務の終了後などに活用しているが、さまざまな広がりを視野に入れる。「事業所同士が交流したり、大会を開いたり。興味をもつ人が増えれば、できることも増える」。柔軟な運営が持ち味の企業ならではの発想だ。「引きこもりの人が、ゲームをきっかけに外に出る気持ちになるかもしれない。この環境が、だれかの生き方に変化を生むことができればいいですね」

(フリーライター・小坂綾子)