ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

みんなと一緒に生きる
障害者の就労を支援(22/12/19)

本條 靖人ほんじょう やすとさん


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利用者のお菓子づくりをサポートする本條靖人さん (右)=6日、守山市・もりやま作業所
 障害のある人もない人も、同じ社会の中で生きることが当たり前の場にしよう―。そんな理念を掲げる守山市の「もりやま作業所」。利用者が、得意分野を生かして自主製品のお菓子作りや下請け作業などに取り組み、工房は和やかな空気に包まれている。

 食品班の主任指導員を務めるのは、本條靖人さん(29)。大きな鍋に入ったあんを根気強くゆっくり混ぜてようかんを作る利用者を見守り、出来具合を確認する。「食品は生き物なので、気温などによって味が変わる。ある意味職人技が必要で、長く食品を担当されている利用者さんに助けられています」。お互いに支え、支えられ、協力して、素材にこだわったお菓子をつくりあげている。

 特に人気のお菓子は、上品な甘さの「もりやまようかん」や、ピーナッツ、くるみ、青豆などさまざまな種類の「もりやませんべい」。道の駅などで販売しており、ようかんのパッケージは、おしゃれなデザインでのオーダーメイドでも受注している。

 同作業所は、就労継続支援B型事業と生活介護事業を展開し、特色の異なる4つのグループがある。生活活動、下請け作業、農芸作業、そして食品作業だ。前身の施設開所は1967年で、障害のある人が働く場として社会福祉法人白蓮が運営しており、約40人が通う。

 「すべての人の笑顔」を掲げる同作業所。本條さんには、利用者を「引っ張っていく」感覚はない。「『してあげる』ではなく、『肩を組んで一緒に行こうよ!』って気持ちです。立場の違いはあるけれど、その前に同じ人間。1人の人として関わりたいし、利用者さんも対等に関わってくれる」  垣根をつくらないスタンスは、コミュニケーションが得意でない利用者の心をほぐすこともある。「自分の世界をもって人とあまり話さない方が、何度も話しかけていると話してくれるようになりました」。利用者の変化や笑顔が、やりがいにつながっている。

 本條さんが障害者福祉に関心をもった原点は、幼少期の友人に障害があったこと。「クラスの中に彼がいてもみんな仲良く、自分にとってはそれが日常だった」。みんなと一緒に生きていくことは、ごく自然な感覚だ。

 そんな本條さんが大切にしているのが、障害のある人とない人の相互理解だという。もう一つの顔であるバンドマンの活動を生かし、年に数回、作業所で音楽イベントを開催している。

 地域住民を招いて、バンド仲間らと曲を演奏し、一体となって楽しむ。障害の有無を超えて一緒に盛り上がる時間だ。「一つの塊になって会場が揺れ、共鳴するので、感動が生まれます」。コロナ禍で最近は住民を招いて開催できていないが、オンラインで配信。YouTubeチャンネルなどでも音楽の発信を続けている。

 「ニュースなどを見て感じるのは、障害者に対する誤解や恐怖感がまだあるということ。でもそれはきっと、お互いを知らないから。関わったらその感覚はきっと変わる。お菓子や音楽を通してお互いを知り、『共に生きる』ことにつながればうれしいですね」

(フリーライター・小坂綾子)