ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

気持ちが楽になるように
目、耳、心を傾ける「傾聴」に尽力(23/02/14)

田子 和代たご かずよさん


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傾聴の魅力や活動の大切さについて語る田子和代さん(京都市中京区・京都SKYセンター)
 目と耳と心を傾け、相手が話すことをただ聴くコミュニケーション法「傾聴」が注目されている。京都SKYセンターのSKY傾聴ボランティアサークル会員で、高齢者施設への訪問を重ねている田子和代さんは、傾聴の指導者でもあり、普及に力を入れている。「相手の方に楽になってもらい、自分の気持ちに気づいていただく傾聴は大事な活動」。田子さんは、高齢者に限らず、悩みを一人で抱え込む人が多く、ニーズは高まっているのを実感する。

 10年前に傾聴に出会った。それまで病院で看護師として働き、大学の保健管理センターで学生や教職員の相談業務などを担った。定年後、小学校の放課後学び教室でサポートに携わり、京都SKYセンターで傾聴の講座を知った。

 受講後、仲間と同サークルを発足。高齢者施設で利用者の話を聴く活動を続けている。訪問先は、新型コロナウイルスの感染拡大で現在は3カ所だが、以前は17カ所ほどを訪れていた。メンバーは60代後半から80代までの約20人で、養成講座の受講生たちだ。

 傾聴には、一定のルールがある。質問をせず、ただ聴くこと。相手の言うことを否定せず、意見も言わない。催促せず、「頑張って」などと励まさない。「傾聴はおしゃべりとは違うため、難しく感じる人も多い。難しいけれど、やりがいがあります」

 訪問は1カ所につき月1回で、時間は30分から1時間ほど。一対一で聴き、終わった後、会話記録という形で、その日のポイントやキーワードをつづる。「相手が何を伝えたかったか、余分な言葉を出していないか振り返り、次回に生かします」。聴き手も成長すると感じている。

 傾聴に行くと、男性は仕事や戦争、女性は家族のことなどをたくさん話し、終わると少し表情が和らいで、明るくなる人もいる。行事に参加するようになったり、協力的でなかった人が協力的になったり、施設職員の助けになるケースもあるという。

 「相手がどういう人なのか知り、受け止めて聴くこと、そのものが豊かな時間」というが、時には「死にたい」などの深刻な言葉が出て、受け止めるのが簡単でない場合もある。「肯定も否定もせず、『そうなんですね、よろしかったら、そのお話を聞かせていただけませんか』と伝え、お話が聴けたらものすごくうれしい」

 養成講座の受講生には、傾聴を心がけたことで、それまで話してくれなかった高校生の息子と話せるようになった人もいる。「指導者としてうれしかった。ボランティア活動に参加しなくても、傾聴を多くの人に知ってもらって社会に広がり、実践する人が増えていけば」と願う。

 傾聴を必要としている人は、さまざまだ。「子ども、独居の人、ひきこもりの人。そして支える側の人にも、傾聴の機会があれば」と田子さんは思う。「傾聴者の役割は大きい。相手の方が、聴いてもらうことで少し落ち着いて、次のことができる気持ちになっていただける。そんな話の聴き方を目標にしたいですね」

(フリーライター・小坂綾子)