ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

育児、仕事 自己決定後押し
カフェ運営、就労も支援(23/02/27)

宮本 麻里みやもと まりさん


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「自分に合うものを自分で選べる場所に」と話す宮本麻里さん(長浜市北船町・LOCO Living)
 みんなの「あったらいいなぁ」をカタチに―。そんなコンセプトを掲げ、住民を応援する事業を手掛ける「合同会社LOCO」の拠点が長浜駅前にある。子育て応援カフェ「LOCO Kichen」と、暮らし応援スペース「LOCO Living」が一体となった拠点施設は、困りごとを相談したり、働いたり、交流したり、人生のさまざまなステージで利用できる地域の居場所だ。

 同社代表を務めるのは2児の母でもある宮本麻里さん(39)。「私たちに関わってくれる人の人生が豊かになるために何ができるか。その発想で進んでいます」

 LOCOの始まりは2013年。居住する余呉地域での子育てサークルへの参加がきっかけになった。子育て情報を交換し、交流できる心強い存在だったが、「もっと気軽に集まれる場所があれば」と思い、仲間と結成した。

 「LOCO」はハワイの言葉で「地元」の意味。地元長浜の母親らが何を求めているのか、100人に調査をした。そして、ニーズの高かったカフェの開設を決意。自治会館で住民の協力を得ながら、週3回の営業から始めた。

 クラウドファンディングにも挑戦し、2度目の移転で現在地へ。母親らから悩みが多く寄せられた就労のサポートにも力を入れ、滋賀県や長浜市などの委託で再就職や起業の支援をするほか、企業から受注して登録者に短時間の仕事を任せる在宅ワーク支援にも取り組む。拠点にはキッズスペースを備え、滋賀マザーズジョブステーションやハローワークの出張もあり、母親からは「あってよかった」の声があがっている。

 多様な働き方を提示し続けるLOCO。だが「生き方に正解はない」と宮本さんは強調する。「経験から感じるのは、育児も仕事も、自分で決め、やりたいことを好きなタイミングでできている人は幸せそうだということ。自分で決められるように選択肢は広げるけれど、ここはそのままの自分でいられる安全な場所。どんな状態でも『関わりたい』と思える場所でありたい」

 利用者の年代は幅広く、シニアの交流の場づくりや子ども食堂の開催など多世代に向けた事業も展開する。それらの新しい取り組みはニーズから生まれる。「私たちの考えを形にするのではなく、困っている人の『やってほしい』を事業にする。みんなの困りごとが少しでも解決できれば」。宮本さんが考える「LOCOらしさ」は、「寄り添う」ことだ。

 LOCOには、さまざまな事情を抱えた人が訪れる。不登校の子どもがいたり、介護があったり、コミュニケーションが苦手だったり。「専門的な福祉が提供できるわけではないけれど、ここでは気持ちを吐き出してもらえるし、次の一歩につながる人もいる。第三の居場所は、本当は地域で暮らすすべての人にとって大事で、必要な人と必要じゃない人の間に線は引けないはず」

 宮本さんの持論は「みんなに事情がある」。それぞれの人が納得できる道や生きがいを見つけられるように。そのための機会づくりにまい進する。

(フリーライター・小坂綾子)