ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

障害のある人を地域で
居宅介護事業所を連携(23/03/20)

永瀬 健太郎ながせ けんたろうさん


写真
「答えの出ないことを、みんなで考えながらやるのが好き」と語る永瀬健太郎さん(京都市上京区・西陣会)
 障害のある人のヘルパー事業に取り組む居宅介護事業所の横のつながりをつくり、同じ思いでサービスを提供するため、京都市内で活動している組織がある。約120の事業所が参加する「京都市居宅介護等事業連絡協議会(居連協)」。事務局長を務めるのは、社会福祉法人西陣会の職員でもある永瀬健太郎さん(48)だ。「事業所のつながりだけでなく、行政に声を届けたり、外部と事業所とのパイプ役になったり。さまざまな役割を果たしています」

 居連協は、障害者のホームヘルプサービスの市場化による弊害をなくす狙いで2004年に発足。地域の100事業所以上がつながり20年間存続する全国的にも珍しい組織だ。西陣会は設立メンバーで事務局を担い、永瀬さんは10年程前から居連協事務局を務め、3年前に事務局長になった。

 居連協が大事にしているのは、障害のある人が入所施設ではなく、地域で当たり前に暮らせるということ。活動の一つが行政との連携だ。定例会やアンケートなどで事業所の声を拾い、毎年京都市に複数項目で要望書を提出。その声が制度に反映された例もある。単に「要望する」のではなく、行政と課題を共有して一緒に考えるスタイルを大事にしている。

 ヘルパー事業者と連携を希望する外部組織との窓口にもなっている。青少年活動センターとの共催で障害のある人の性の学習会を開いたり、精神科病院と一緒に、長期入院患者の外出支援(退院支援)とヘルパーをつなぐ病院見学ツアーを開催したり。ニーズに合わせた企画を進めている。

 昨年度から2年連続で取り組んだのが、当事者団体「日本自立生活センター(JCIL)」との国際障害者年連続シンポジウムの共催だ。Zoom配信で、当事者や家族、支援者、行政、施設、病院、研究者らが参加し、YouTubeにもアップした。「当事者だけ、支援者だけでなく、いろんな人と同じテーマで話すことがあまりなかった。違った立場の方々と議論できたのは大きい」。永瀬さんは、立場を超えてつながることの重要性を実感した。

 本年度のテーマは「障害のある子どもたちの今とこれから」。支援学校に通うわが子に手をかけた親の事件が話題に上がり、親の孤立や悩みも見えた。「ヘルパーとして『この子』を支えることの必然と同時に、親のSOSを早くキャッチする必要があると、あらためて思いました」

 今後の課題と感じているのは、あらゆる人を排除せず包摂する「インクルーシブ教育」の取り組みだ。「障害のある子とない子が同じ場で学ぶことの大切さ、その子に合わせた個別の支援の大切さ。インクルーシブという言葉の捉え方自体もさまざまで、福祉の問題でも教育の問題でもある」。重い障害のある人と地域で共に暮らせる「インクルーシブ社会」の実現にも課題が多い。「難しいからこそ、支援者同士、そして支援者といろんな立場の人が、対立ではなく対話的な議論をし、相談し合える関係が大事。福祉を担う若い人たちにも良い事例を共有して、みんなで考えていきたい」

(フリーライター・小坂綾子)