ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

ひとりぼっちを作らない
一人で育児する母親を支援(23/06/19)

坂下 ふじ子さかした ふじこさん


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母子家庭を支える坂下ふじ子さん。フードパントリーの取り組みも好評だ(大津市・滋賀県母子福祉のぞみ会)
 一人で子どもを育てる母親たちを支援する、大津市の社会福祉法人・滋賀県母子福祉のぞみ会。代表を務めるのは、自身も一人で子育てをしてきた坂下ふじ子さん(64)。相談者の困りごとを一つ一つ、一緒に整理して支援を組み立てている。「のぞみ会につながるお母さんは、子どものことや生活、仕事、自身の精神面など、しんどいことが重なって、パニック状態。『とにかく助けて』と来られ、一緒に整理する中で、落ち着かれていく。だから必要なのは、実家に帰ってきたような、心許せる場所だと思っています」

 坂下さんが同会と関わるようになったのは、約20年前。わが子が高校生の頃、悩みを聞いてほしくてかけ込み、助けられたのがきっかけだ。「同じ立場の人と話し、私一人じゃないと思えて、すごくほっとした。周りに話せる人がいなかったから」。当時のお返しをしたくて、活動に参加した。

 同会は、「戦争未亡人の会」が前身で発足し、現在は、県内の母子約2000人を支援する。生活支援や自立支援、職業訓練、就労支援に取り組むほか、月に数回開催するフードパントリーや、コロナ禍を機に行き場のない人に向けて開設した多機能型シェアハウスの運営にも力を入れる。

 時代とともに、母子家庭の状況や困難が変化し、坂下さんが関わった20年前とも、母子の生活環境は大きく変わった。「私たちは制度もない中で必死に子どもを育ててきた。今は支援制度はあるけれど、お母さん自身の育ちが複雑だったり、DVがあったり。基本的な生活力をもたない人も。一人での子育てに、相当疲れておられる」。特に課題だと思うのは、精神面のサポートだ。

 同会が特に大事にしているのは、しんどいまま気軽にかけ込める「ワンストップ」の場所であること。行政の窓口に行き、マニュアル通りの調書や担当課のたらい回しに疲れ果て、たどり着く人もいる。「精神的に弱っているお母さんが、複数の課を巡って何度も同じことを話すのは相当な負担になる」と感じている。

 ひとり親といっても、同会につながってくる母親は一様ではない。おとなしい人、よく話す人、子どもに手をあげる人もあれば、逆に子どもから怒鳴られる人もある。親の愛情を知らない人や、カップラーメンで育った人も。ひとり親だけでなく、最近では離婚前の相談も増えている。

 必要な支援はそれぞれ異なる。料理など基本的な生活ができない人には、負担になるような声かけはせず、料理を作って持っていったり、作る姿を見せて自然に覚えてもらったり。「自分の力で歩けるように支えたい」という思いから、シェアハウスを出た後のフォローや、正規雇用での就労を目指す支援にも力を入れる。

 「何より願うのは、企業や行政、地域、そして社会全体で、母子の抱える困難を考えられるようになること」と坂下さん。個人情報の壁は厚く、困っている人がどこにいるのかわからない時代の難しさはある。けれど、「ひとりぼっちを作らない」というモットーは、活動を始めた当初も今も変わらない。(フリーライター・小坂綾子)