ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

安心して飛び込んでおいで
社会的養護で育つ子の就労を応援(23/09/12)

宮川 絵理子みやがわ えりこさん


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「しがの子ども仕事体験PARK」で仕事体験を見守る宮川絵理子さん(8月2日、草津市・滋賀県長寿社会福祉センター)
 さまざまな事情で親と暮らせない子どもたちが将来に希望をもてるよう応援する就労体験の取り組みが、滋賀県で広がっている。受け入れ協力企業として拡大に注力しているのが、東近江市の製造会社「宮川バネ工業」の専務取締役宮川絵理子さん(43)だ。

 「社会的養護で育つ子どもは、大人を信じられなかったり、社会に出るのが怖かったりする。頼れる人がいなくて18歳で自立しなければならない子のために、地域の企業として関われることがうれしくて」。県内のさまざまな場で思いを語り、応援の輪を広げている。

 就労体験事業は、滋賀県社会福祉協議会の呼びかけで福祉関係者が発足させた「滋賀の縁創造実践センター」が2015年に開始。現在は、同社協の事業として続けられ、企業での体験のほか、小中学生を対象に企業が体験ブースを設ける「しがの子ども仕事体験PARK」などを開催している。

 宮川さんが事業に関わるようになったのは、協力依頼に訪れた同社協の職員から、社会的養護で育つ子どもたちの現状を聞いたのがきっかけだった。親元で暮らせない子が県に350人おり、自立するときに支えてくれる人がいなくて困難を抱えることを知った。

 「それまで、『社会的養護』という言葉も、子どもたちの抱える困難も知らなかった。大変な衝撃を受けて、地域の企業として、一人の大人として、子どもたちの力になる責任があると強く思いました」。社協職員の「子どもたちの応援団を増やしたい」という言葉に共感し、協力企業に登録した。

 子どもたちに初めて出会ったのは、多業種の企業が児童養護施設を訪れて話す「プロフェッショナルセミナー」だ。緊張しながらの参加だったが、大人の言葉を懸命にノートに書き留める姿にいとおしさが込み上げた。その後、職場体験に来た中学生が「早く一人で働けるようになりたい」と言うのを聞いた時は、親元を離れている子たちにとって、就労体験は興味本位や義務ではなく、将来の仕事に直結しているのだと教えられた。

 「社会には応援してくれる大人がたくさんいて、飛び込んでも大丈夫だと思ってもらえる地域にしたい」。その気持ちを、社員や県内のつながりのある企業にも伝え続けた。同じ企業の立場から声をかけることで、関心をもってくれる人も少しずつ増えていった。

 「滋賀は福祉の先進地。『福祉のことは福祉の人がやっている』というイメージで、企業にとっては専門外のように思っていた」。だが、取り組みを進める中で感じたのは、「世の中にいろんな仕事がある」と知ってもらい、「社会に出ても安心」と思ってもらう役割は企業にしかできないということだ。子どもを真ん中に、立場を超えてつながる中で、福祉へのハードルが取り払われていった。

 当初は意識して社会的養護で育つ子の話を出していたのが、今や当たり前のように、社内や企業間で話題にのぼる。「子どもたちに一生懸命向き合う、その積み重ねで変わってきた。田舎のごく普通の企業でも、ありのままでできることがある。そのことを、多くの企業に知ってほしい」

(フリーライター・小坂綾子)