ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

希望の実現へ一緒に模索(23/10/09)

障害者グループホーム運営
大月 遼平おおつき りょうへいさん


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「障害のある人やご家族のいろんな声を聞かせてほしい」と話す大月遼平さん(京都市伏見区)
 京都市伏見区羽束師の住宅街に昨年、障害のある人たちが暮らすグループホーム「セルン伏見」がオープンした。管理しているのは、大月遼平さん(36)。余暇活動にも力を入れ、障害のある人の自立を支える。「いろんな希望を持って来てくれる。実現するために、何ができるようになればいいか、一緒に模索しながら作り上げるホームを目指しています」

 セルンを開設するまでは、京都市立総合支援学校の教員として、卒業後の生活の場について考える機会が多かった。障害者向けのグループホームが少ないことを感じた。「自立を目指す人にとって、毎日の生活の場を“ 選べる ” ことは重要。なのに、選択肢が少ない」。望んだ地域で暮らせるのか、支援体制が生活スタイルに合うのか、条件を見比べてぴったりのホームを選んでほしくても、かなわなかった。

 「誰か何とかしてくれないかと思っていたけれど、変わらない。それなら自分がやればいい」と、思いきって退職。仲間と一緒にグループホームを立ち上げた。今年2月には醍醐に、今月には南区久世に新しくホームをオープンし、なるべく多くの人が地域で暮らせるように走り続けている。

 1棟の定員が6、7人で、スタッフは交代で入る。入居者は日中事業所や企業で働くため、夕方から朝の仕事が中心だ。掃除や洗濯を自分でできるように支えたり、決まった時間に寝るよう促したり。調子を崩した時は心身を立て直せるようアプローチし、金銭管理が苦手な人にアドバイスする。

 周りの支援者とのコミュニケーションも仕事の一つだ。職場や相談支援事業所の担当者にホームでの様子を伝えたり、薬の量による変化を観察して医療機関に相談したり。本人を取り巻く人たちと役割分担しながら支えている。

 セルンのモットーは、「自立を目指す人に最大限の支援をする」ということ。「ただ暮らすだけの場所」にはしない。「利用者さんのより良い暮らしを考えると、やることは無数にある。リストにしにくい仕事も多くて簡単ではないけれど、それがやりがいでもある」。大事にしているのは「これまでの歩みを一緒に振り返る時間をもつ」ということだ。「最初は洗濯できるか心配してたのに、洗濯機回して干して、乾いたら取り込むだけ。やってみたら案外できる」と感じる人もいる。「『できた』と思える成功体験を積めれば次のことに挑戦する活力になる。時々立ち止まって後ろを見て、しんどさを乗り越えてきた歩みを確認するようにしています」

 支援学校では、生徒の未来を見ていた。ホームでは、時には自分より年上の人の人生を一緒に考える。「目標なんてないわという人と、よりよく生きるための幸せを一緒に考えるのは違った面白さがある」。おやつ作りや休日のイベントも多数企画する。

 夢は、重度の人も利用できるホームをつくることだ。「必要なのは、職員のスキル向上や人材育成。障害が重くても、誰でもいつでも受け入れられるグループホームをつくりたいですね」 

(フリーライター・小坂綾子)