ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

「悩んでる」言える場所に
母親の心身に寄り添い支援(24/02/19)

西村にしむら さつきさん


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先輩ママが活用した子育てグッズも集まる。「いろんな支援があることを、ここから発信したい」と話す西村さつきさん(大津市)
 母親が心身ともに健康で、安心して子どもを生み育てられるように―。そんな思いを胸に、大津市伊香立で活動する団体がある。「子育て応援団YUMEMURA」。代表の西村さつきさん(48)は助産師で、保育士、教師と3人で、 「学ぶ」「集う」「結ぶ」「休む」をテーマに、休息の場や学びの機会を提供する。「活動を通して思うのは、親が子どもに愛情を注ぐことができ、親子関係が良好であれば、社会のいろいろな問題を解決できるのではないか、ということ。そのためにまず、お母さんの不安や孤独を解消したい」。地域コミュニティーが希薄になる中で、地域と人、人と人を結んでいる。

 YUMEMURAの発足は2019年。原点には、助産師として病院に勤務しながら出産した自身の経験がある。産後、子育てに悩んで不安を感じ、「助産師の自分がこんな状態になるのだから、不安で鬱々(うつうつ)としているお母さんはたくさんいるだろう」と思った。そんな中、病院で出会った母親が、生後数カ月のわが子を残して自死してしまう。「問題を抱えているように見えなかったのに」。自身が感じた不安や孤独を思い出し、「産後のお母さんたちの力になりたい」と、地域に飛び出した。

 15年にさつき助産院を開業。母乳ケアを中心に母親をサポートする中で見えてきたのが、「母乳期が終わると、また居場所がなくなる」ということだった。母乳期を終えた人のためにYUMEMURAを立ち上げ、週3回集えて学べる場所をつくった。

 「母親は、子育てを誰からも教わらず、『赤ちゃん』という未知の生き物の命を、自分の命をかけて守っている。睡眠不足にも貧血にもなり、ご飯もろくに食べられなくても、自分の体調より赤ちゃんが気になってしまう人もたくさんいる。子育てを楽しむためにやるべきことは、何より休息です」。親子で来てもらい、休んでもらう。そして、親子の関わりに疑問を感じても、母親を責めない。「しんどいよね」「つらいよね」と声をかける。

 母乳期が終われば一段落ではない。イヤイヤ期、「小1の壁」、友達関係の難しい時期や思春期もくる。それらを見据え、子どもの発達や家庭教育のポイント、学校との関わり方などの講座を開き、専門家から大切なことを学んでもらう。カフェでは母親同士が語り合う。「しんどい気持ちを同じ立場の人と分かち合ったり、先輩ママから教わったり、『ピアサポート』の場にもなっています」。ここを拠(よ)り所に子育てを頑張る母親や、リピーターも多い。

 大事に考えているのは、「弱さを見せられる」ことだ。自身の子育てでは、「助産師なら知ってるよね」という空気から「わからない」と言えないことがしんどかった。保健師から「そら、わからんこといっぱいあるよ」と言われ楽になった。「悩んでると言える場所でありたい」と強く思う。

 来年度は法人化し、学童期の子育て支援や多世代交流、まちづくりにも力を入れていく。描いているのは、ゆるく結ばれたコミュニティーで子の成長をみんなが喜べる地域づくりだ。

(フリーライター・小坂綾子)