ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

目の前の子を見て、話聞く
水族館を手作りした牧師(24/04/08)

篠澤 俊一郎しのざわ しゅんいちろう さん


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教会の水族館で子どもたちと談笑する篠澤俊一郎さん(中央)=京都市右京区
 「この子、首を触っても大丈夫ですよ」。所狭しと水槽が並ぶ空間を地域の子どもたちが案内し、生き物の特徴や飼い方を説明してくれる。京都市右京区の住宅地にある日本ナザレン教団花園キリスト教会の1階。ピラルクやピラニアといった淡水魚から、ゾウガメやイグアナまで、珍しい生き物約190種類を展示する「花園教会水族館」だ。運営する篠澤俊一郎さん(44)は、同教会の牧師。花園ジョイフル子ども会の代表も務め、どんな家庭環境の子も夢と希望をもてるように、居場所づくりやイベントの開催、学習支援などに取り組んでいる。

 「魚が好きな子やみんなと遊びたい子、家庭に居場所がない子など、さまざまな子が集います。子どもたちと一緒に楽しんでやっている中で、どんどん成長していくのが見える。うれしいですね」

 大学時代はホームレス支援の活動に取り組み、卒業後、関東地方で牧師に。立ち上げた非営利の会社経営と二足のわらじで忙しい日々を送っていたが、うつ状態になり、両立を断念した。その後会社員生活を経て花園キリスト教会の牧師に就任し、再スタートを切った。そんなある日、娘が捕ってきたザリガニを飼ったのがきっかけで幼少期からの趣味が再燃し、魚を集めて展示するように。「生きてる魚を見たのは初めてや」という近所の子のつぶやきを聞き、家庭の状況によって豊かな経験を積めない「相対的貧困」の子どもたちがいることに気づいた。地域の子たちのために本格的な水族館を開館し、子ども会も立ち上げて、週末にさまざまな遊びで交流を深める活動を始めた。

 子ども会への登録者は、現在5歳から19歳までの約60人。古株の子たちは、お兄さん・お姉さん的な存在になっている。「縦割りで活動しているので、異年齢のコミュニケーションによって変化していく。『しくじり』経験もたくさんあるけれど、それも共有して、次につなげています」。最初は全く話さなかった子が、何年も通っているうちに、水族館のガイドを申し出るまでになることもある。

 進路のサポートや学習支援にも取り組む。母子家庭で、母親が忙しかったり病気を抱えていたりして相談する人がいない場合は、一緒に将来について考える。

 現在力を入れているのは、子どもたちの自立を促す「おむすび食堂」だ。ただ大人が作ったご飯を食べる子ども食堂ではなく、作り方を教わって子どもが作り、集まった大人たちに振る舞う。「自分で作れると、子どもたちもうれしい。家族のために作るようになった子もいます」。この場では、子どもたちが将来の夢を発表したり、企業などに声をかけて職業紹介してもらったり。「いろんな仕事を知れて、企業側も次世代に知ってもらえる。いい機会になっています」

 大きなビジョンはなく、将来の活動方針も決めていない。それがモットーでもある。「これまでも、目の前の子どもたちを見て、話を聞いて、ニーズに応えて動いてきた。これからもそのスタンスで、彼らが帰ってくる場所として在り続けたいと思っています」

(フリーライター・小坂綾子)