ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

放課後の子の成長手助け


長岡京市「すくすくキッズテン」
コーディネーター  西村 日出男さん



 「すくすくキッズテン」は、国と京都府が子どもたちのたくましい成長と居場所づくりのために打ち出した方針に沿って、長岡京市が2007年度から始めた放課後子ども教室推進事業(すくすく教室)の一つです。

 長岡第十小学校区の児童全員を対象に毎月土曜日と水曜日、校内の音楽室や体育館などを会場に1〜2時間、開きます。毎回、100人余りが参加して「学校ではやらない体験」を基本に、学習からスポーツ、伝統文化まで幅広く活動中です。


「すくすくキッズテンは、地域の人たちが体験や生涯学習で学んだことを、子どもたちに伝える『新生涯教育』につながる」と話す西村日出男さん(5月21日、長岡京市内)
 どんな教室を開くかで、子どもたちにアンケートを行ったこともあります。現在は百人一首、卓球、手話、ダーツ、コマ回しなど約35種の教室を開催。目を輝かせて取り組む子どもたちの姿を毎回、誇らしく感じています。各教室で先生役を務める指導員は約50人。ほぼすべて地域の住民の皆さんで、この事業のもう一つ意義が、そこにあります。

 私は教育哲学が専門で、これまでに中学や高校、大学で主に道徳を教えてきました。私生活では自分が住む長岡京市でPTAや自治会、社会体育振興会の役員を経験する一方、文化講座などのまちづくり活動にも参画。「地域の課題解決は、まず地域の力で」を実践してきました。すくすくキッズテンのコーディネーター(運営統括役)を13年前に引き受けたのも、「地域の力で地域のこどもたちを育む」という放課後子ども教室の趣旨に賛同したからでした。

 日本には生涯学習という言葉が定着していますが、元々は国連が打ち出した「生涯教育」が言い換わったものです。私は、せっかく生涯学習で学んだことは「どこかで生かすべき。子どもたちに還元するのはよい選択」と考え、これを新生涯教育と名付けて普及を図っているところです。

 地域の大人が、生きている間に自分なりに得た知見を地域の子どもたちへ伝えることは、生きがいにもつながり意義ある試みです。人は、教壇に立たなくても教師の役割を果たせるのです。

 すくすくキッズテンの指導員はプロ、アマを問いません。狭い校区でも教えられる人材は必ず見つかります。開催時間が昼間なので、リタイアされた方々が多いのですが、集まるとこんな感想をいつも聞きます。「子どもたちといるのが楽しくて…」「指導員が生きがいになってしまった」

 落ち着きのない子、手を焼いたごん太たちも、放課後の各教室で1、2年を過ごすと、見ちがえるように成長してくれます。それが、また私たちのやりがい、喜びにつながってくるのです。

 約50人いる指導者と、私を含む6人の役員も高齢化が否めません。新鮮で活力ある教室の維持・発展へ今後、会員制交流サイト(SNS)やパソコンに強い若い力の参加を促すつもりです。新型コロナウイルスの流行でことし3月以降、開催自粛が続きましたが、2学期以降の再開を目ざし準備を進めます。


にしむら・ひでお
1947年、大阪市生まれ。関西学院大卒。道徳教育学講師。元帝塚山大教授。教職の一方で「長岡京市民大学」をはじめ、同市の地域活性化へ文化や環境分野で多様な取り組みを提案、実行している。2010年度長岡京市文化交流賞受賞。京都府地域学校協働活動推進委員ほか役職多数。長岡京市在住。