ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
来た道 行く道

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

個々の能力 生かす介護を


「高齢者福祉施設 西院」
所長 河本 歩美さん



 「福祉の枠だけにとらわれず、広い視野で考える。地域や社会と常につながる」。今の仕事に携わって、心がけてきたことです。

 所長として、京都市右京区で高齢者向けのデイサービス(利用者約120人)や介護予防支援、小規模多機能型居宅介護などの事業を行っています。自立支援でも居場所づくりでも、社会とかかわりは絶やしたくありません。


「真の自立支援とは何か、を追求していきたい」と話す河本歩美さん(昨年12月23日、京都市右京区西院上今田町・高齢者福祉施設 西院)
 「sitte(シッテ)プロジェクト」は、そんな思いを形にした私たちの独自ブランド事業です。理解ある地元企業と連携して市場で十分に競争力のある木製品を、2年前から施設内で製作しています。丸型のまな板や、カッティングボードなど1万円前後の高額商品ですが、ブランドsitteの名が広まり販売は順調です。

 製作するのは要介護度平均2・3というデイサービス利用者さんたち12人。材料の選別にも加わり週1回、作業します。板に丸味をつける丹念な磨きの工程が腕の見せどころです。木製品作りは「真の自立支援、社会参加をどう実現するか」で、職場に委員会を設け議論した結果です。利用者さんには、誰かの役に立ちたいと思う人、認知症でも能力を秘めた人が多くおられました。

 作業日は参加者全員が出勤簿に記入、そろいのエプロンで働くようにしました。1年、2年と続けるうち、みなさん役割を果たす自覚と責任感が生まれてきたのです。環境づくりが、意欲や主体性を引き出すのを目の当たりにして驚かされました。

 働いた報酬は「謝礼」の形で金券をお渡しします。三条会商店街(中京区)さんのご協力で、加盟店の大半で使えます。券を手に、そろって商店街へ買い物に出るのは、楽しい時間です。

 高齢者福祉施設がブランドを起こし事業化を果たせたのは、京都の企業やまちづくり団体の人たちに助けていただいたおかげ。以前から異業種交流会などに参加して多様な分野で知己を増やしていたのが生きました。

 私が福祉の道に進んだのは小学5年生のころ、通学路で大学生に「ボランティアしない」と誘われ、障害のある人たちのお手伝いをしたのがきっかけでした。大学も福祉学科を選択。ゼミの先生から教わった言葉がずっと胸に残っていました。「ただ手助けするのではなく、その人の持つ能力で回復を図り、生きがいづくりにつなげるべきだ」

 先生の言葉はリハビリの重要性も指していると思い8年前、施設に作業療法士さんを採用。個々が持つ能力を生かす介護に取り組んだのです。作業療法士さんはsitteの開発や職場の委員会活動でも中心的な役割を果たし、狙いは当たりました。

 現場に長く立ち「課題、難題は乗り越えること自体を楽しむ」習慣を身につけました。職員さんたちが課題克服の労を楽しめる環境を、どうつくるか。今後の私の役割だと考えています。


こうもと・あゆみ
1971年、京都市生まれ。95年、社会福祉法人京都福祉サービス協会(下京区)に入職。2007年から同協会の「高齢者福祉施設 西院」所長。高校生と商品の共同開発や、施設で多世代が交流する「おいでやす食堂」などにも取り組んでいる。