ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

地域支えに誰でも受け入れ


社会福祉法人きぬがさ福祉会
理事長 田中 健二さん



 「ひとりぼっちの障害者をなくそう」を基本理念にスタートした私たちきぬがさ福祉会は、法人化する前から数え、ことしで活動40年目を迎えました。


生活介護施設・きぬがさ作業所で、さをり織り製品などの作業室を見回る田中理事長(3月25日、近江八幡市安土町下豊浦細江)
 多くの方々の熱意とご支援で、東近江圏域に生活介護や就労継続支援B型など四つの通所施設と、五つのグループホームを持つ中堅の障害者福祉事業所に成長を遂げました。障害者福祉制度はこの間、目まぐるしく変化しましたが、制度に合わせるのではなく、あくまで当事者・家族の願いに従った事業を展開しています。

 私たちの原点となる「きぬがさ共同作業所」が生れたのは1982年。障害のある人が養護学校などを出ると、居場所も働く場もなく孤立することが多かった時代、地域にあって少額でも働いて賃金が得られる共同作業所は希望の星でした。

 旧安土町庁舎だった老朽建物を借り利用者さん6人、職員1人で始動。私はその翌年に2人目の職員として入所したのです。雨漏りもする環境で、洗濯ばさみ作りなどの仕事に取り組みました。しかし、利用者さんが増えてくると、公的助成の厚い認可施設にならない限り、より高い賃金支払いなどのニーズに応えられないと痛感。地元行政に働きかけましたが、首長さんの了解を得ることが容易にはできなかったのです。

 なんとか状況を打開したいと思い「行政より地域の人たちに直接、訴えかけよう」と決断して92年に取り組んだのが、夫婦デュオのチェリッシュを招いた「法人認可を目ざすコンサート」でした。利用者さんらも舞台で歌い、千人が入場して大成功を収めました。さらに2年後、「豊かな法人認可を目ざすアグネス・チャンコンサート」を開催。1400人が集まり、あいさつに来た首長さんも舞台上で「応援したい」といわざるをえない盛り上がりとなったのでした。

 法人化は、こうして世論が押す形で94年に実現。翌年には現在、法人事務局や生活介護の「きぬがさ作業所」を置く場所(近江八幡市安土町)に移転、新築を果たすことができました。

 私は学生時代から成人の人格発達に興味がありました。共同作業所は「障害がある人の成人期の発達支援」を実践する場であり、「職員に」と誘われ、二つ返事で飛び込んだのです。障害種別にかかわらず誰でも受け入れる共同作業所の理念は、私たち法人が最も大切にしているところです。

 長い活動を通じて思い知ったのは、私たちの事業も活動も地域の理解と支持なしには成り立たないということ。障害への理解促進のため82年から安土で始めた「きぬがさまつり」が過去37回を数え、秋の地域恒例行事に定着したのはうれしい限りです。

 今後はニーズの高いグループホーム増設などを進めますが、その前に「利用者さん、職員が能力を最大限に発揮して生き生きと働き続けられる事業所、職場づくり」が何より重要と考えています。


たなか・けんじ
1958年、滋賀県東近江市生まれ。佛教大卒。養護学校勤務などを経て年、「きぬがさ共同作業所」に職員として入所。地域の障害者理解促進や、社会福祉法人化に取り組む。施設長などを経て2017年から法人理事長。法人9施設の利用者は現在113人、職員約100人。