ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

夢は下請け脱し、自立経営

NPO法人「Joint Joy」
理事 山本 陽子さん



 ハンディの有無にかかわらず働くことを通じ自分の思いを実現させ、楽しく自立を果たそう―。「Joint Joy(ジョイント・ジョイ)」が動きだして8年が過ぎましたが、私たちの最初の理念は全く変わっていません。


「生産から経営まで自力で行う企業化を果たし、メンバーさんたちの期待に応えたい」と話す山本陽子代表(八幡市男山竹園)
 メンバーさん(利用者)は障害の種別を問わず受け入れます。現在の登録は、18歳から70歳代までの26人。職員は12人で就労継続支援B型などの事業に携わっています。メンバーさんには「失敗しても工夫して乗り越えられる人になろう」と呼びかけ、どう工夫するかを自分で考えるよう促しています。考える糸口を示すのが、職員の仕事です。

 夫のケーキ店を手伝っていた私が、福祉の道に入ったのは33歳のころ。発達障害の子どもたちに出会って心を動かされ、京都市内の共同作業所に勤めたところ、そこで衝撃を受けたのです。

 単純作業とはいえ、働くメンバーさんの時給がなぜ数十円なのか。工賃のあまりの低さがどうしてもふに落ちませんでした。「誰もが納得いく工賃の仕組みをつくれないか」そう思い立ち、八幡市の福祉事業所に勤めながら8年半、試行錯誤を続けました。

 たどり着いたのは、当たり前ですが「支払えるだけの収入源を確保すべき」という結論でした。地域の各商工会でつくる山城地域ビジネスサポートセンターなど、多くの支援をいただき、新規に弁当作りなどに乗り出しました。工賃アップにある程度、結果が出たころ、職場の同僚や支えてくれる仲間から「もう自分でやったら」と背中を押され2013年5月、開設したのが「Joint Joy」でした。

 最初の仕事は、発起人10人で経費が抑えられるおにぎり作りと決めました。お米を精選して「おいしい」と評判をもらえるようになり、日替わり弁当、クッキーなどのお菓子作りへ仕事を拡大。地域の人が集えるカフェを開き、弁当は店頭販売のほか独居世帯の見回りを兼ね八幡市内で約80食を配達しています。

 畑を2カ所に借り、ネギやジャガイモ、イチゴなどを育て、弁当食材の野菜は自家調達に近づいています。工賃は、通所の方法などでも変わりますが、多い人で月5万円を超えるようになってきました。集中できる仕事として精神障害のある人などに適した「組みひも」作りにも取り組んでいるところです。

 工賃への疑問から始めた私がいま目ざすのは、企業化です。就労訓練を目的にする福祉事業所が、公的助成だけに頼る「福祉業」に陥ってはなりません。国の財政難から公的助成に頼れない時は、いつか来るはず。だから、下請けではなく仕事はメンバーさんと共に自分たちで作り出し、生産も経営も自分たちで担いたいのです。これからの職員には経営、営業、発信の三つをこなす人材を望んでいます。

 京都市内への出店、メンバーさんたちが住むシェアハウスの設置。自立経営実現の先には、そんな計画も見据えています。


やまもと・ようこ
1963年、京都市生まれ。夫とケーキ店を営んでいた96年、障害者福祉の道に。共同作業所や福祉事業所で職員体験を積み2013年、八幡市に「Joint Joy」を開設した。就労継続支援B型、就労移行支援などの事業を展開。「なりたい自分」「変えたい自分」がある利用者の志を応援している。