ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
来た道 行く道

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

自立支援施設で子ら指導

亀岡市太鼓連合会会長 藤本 邦雄さん



 和太鼓の魅力は、なんといっても響き合いにあります。大小の太鼓を合奏する時、音とともに打つ者同士の心が響き合い、一つになることで、聴く人の心を打つ演奏ができるのです。

 響き合って太鼓を打つと、カタルシス(精神の浄化)効果とともに集中力も養われ、情操教育、社会教育上の効果も大きいものがあると感じます。


「和太鼓の指導は、子どもたちに『面白い体験ができた』と感じてもらい、それを積み重ねることが大事」と語る藤本さん(亀岡市・自宅)
 私は京都府立淇陽(きよう)学校(南丹市園部町)をはじめ、地域や小中学校の支援学級などで約?年間、和太鼓の指導を続けてきました。初めは関心の薄い子も、基本を覚え上達して人前で発表するようになると、周りから「励まされたり褒められたり」を経験します。すると、自分に自信を持てるようになり、表情や生活態度が輝き始める。下級生たちはそんな上級生の姿に「次は自分も」と憧れ練習に励む。実例を何度となく見てきました。

 淇陽学校は、家庭や地域などで問題行動があったり、養育、監督力に欠ける家庭の子どもたちを預かり(全寮制)、自立支援を図る施設です。6年前、内部に中学校と小学校が開設されました。

 教え始めた当初こそ、反発ややる気のない態度も見られましたが、先生方の協力と子どもたち自身の努力で「淇心太鼓」の名で定着。今では大小15台の太鼓を備え校内行事のほか町内の夏祭りでも定番演奏するなど、地域になくてはならない存在に成長しました。

 私が和太鼓と出合ったのは、園部青年会議所(現船井青年会議所)で活動していた1980年ごろです。会議所の社会事業として「子どもたちに伝統文化の和太鼓を教えよう」と意見が一致。まず自分たちが習得するため、京都府京丹波町の和知太鼓保存会に教えを願い、8人ほどで練習を重ねました。

 園部で地域の小中学生を指導するようになり、子どもたちによる「丹波路太鼓」を発足させ、さまざまの場所で演奏を披露しました。そんな経験もあり、淇陽学校の先生たちから「うちでもぜひ」と請われたのです。和太鼓を授業に取り入れていただき、93年には学校の非常勤講師となって現在も週1回は指導に通っています。

 淇陽学校に前後して亀岡市内の小学校支援学級からも依頼を受け、仲間と3人で計12校へ指導に訪れていた時期があり、今も安詳小など2校で教えています。

 私は学生時代にジャズに傾倒した経験から、ジャズやクラシックのリズムとセンスを生かした太鼓の曲を作るようになりました。うち数曲は淇心太鼓でも演奏します。生徒たちは楽譜さえあれば、自在に打てるほどのレベルに達しているのです。

 和太鼓を地域文化に定着させる道は、続けること以外にありません。80歳を迎えるまであと3年。それまでに確かな後継者を見つけたいと願っています。


ふじもと・くにお
 1944年、京都市生まれ。同志社大卒。南丹市内で家業の木工会社役員を務める傍ら、園部青年会議所の事業で、子どもたちに和太鼓指導を開始。85年、亀岡市に転居した後も府立淇陽学校や地元の小学校などで太鼓指導に当たる。元園部青年会議所理事長。府太鼓連合会副会長。亀岡市大井町並河。