ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

生きづらさを花で癒やす


NPO法人「フラワー・サイコロジー協会」
理事長 浜崎 英子さん



 いけばなには、花の手触りや香りで五感を刺激して脳を活性化する効果があります。1本の花も、いろんな角度から見え方を試すので、思考を柔軟にしてくれます。花はその人の心の表現です。自由に花を選び自由に生けることで、とくに認知症や不登校、引きこもりなど生きづらさを抱える人には、癒やしや心の安定をもたらす効果がみられるのです。

 大学入学時からいけばなを習う一方、心理学を専攻した私は、卒業後もいけばなの秘めた力と心理学を融合して、社会に役立てる方法を模索していました。ある時、そのアイデアを、母校の心理学部に属する研究センターで学術的に深める機会をいただき、認知症の諸症状をいけばなで緩和・安定させるプロセスを発案。「いけばな療法」と名付け以後、実践に移してきました。


「いけばな療法を普及させ、花を通じて誰もが価値ある存在と認め合える社会をつくりたい」と話す浜崎英子さん(2月23日、京都市右京区山ノ内宮脇町、フラワー・サイコロジー協会)
 いけばな療法は、なぜ認知症ケアに役立つのか。認知症の人は意志を言葉では伝えづらく、大声や多動などの周辺症状が現れる場合があります。自分の心を自由に表現できるいけばなは、参加するだけで症状が緩和。茎や枝を切ったりちぎったりする作業もカタルシス(浄化)効果が高いのです。これまで、20を超す高齢者施設で、のべ約4万人に参加していただきました。

 私は40歳で専業主婦からひとり親になりました。経済的な不安に加え、2人の子どもはまだ小学生。家庭の変化は子どもの心に影響して学校生活につまずくこともある苦しい時期でした。そんな時、左京区の老健施設に初めていけばな療法を採用していただき、前途が開けたのです。

 研究・活動拠点として2009年、NPO法人「フラワー・サイコロジー協会」(右京区)を設立。現在、いけばな教室や心理カウンセリング、不登校相談などを開き、月2回の子ども食堂はいつも盛況です。

 50歳になって、花と人と社会の関わりを考察し直したいと考え、仕事の傍ら5年間大学院に通いました。研究中に、いけばな療法を科学的に理論づける「日本いけばな療法学会」の設立を構想。主任教授らのお力も借り、19年に実現することができました。

 いけばな療法を、社会参加モデルへ発展させたのが18年から始めた「いけばな街道」です。認知症の人や児童養護施設、大学などで花を生けてもらい右京区嵯峨鳥居本の愛宕古道街道1.5`間の民家や店舗の表に飾る取り組み。地域の方々をはじめ多数の協力で成功を収め、今では全国数カ所で開催され、参加者がオンラインで交流するイベントに成長しています。

 支援者やスタッフのおかげで、ここまで走ってきましが、協会が認定した「いけばな療法士」はまだ20人。これを公的な資格に引き上げて数を増やし、花を通じて誰もが価値ある存在と認め合う社会を実現する。次代に向けた私の目標です。


はまさき・えいこ
1965年、京都市生まれ。同志社大大学院総合政策科学研究科修了。2008年、華道と心理学を融合したフラワー・サイコロジー理論に基づく研究所を開設。19年、「日本いけばな療法学会」設立を主導して副代表理事に就任した。公認心理師。右京区在住。