ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。


心に寄り添い共感しつつ

傾聴ボランティア「こころ」
前会長 馬淵 博司さん



 目前の高齢者の方々をありのままに受け入れ、その心に寄り添い共感しながらお話を聴くのが、私たち傾聴ボランティアの役割です。木津川市の山城町地域で同志が集まり「こころ」を結成して11年。定期的に高齢者福祉施設や個人宅へ出向いて、じっくり聴く活動を続けてきました。


自宅で「こころ」副会長の高田七重さんと会員研修や例会の打ち合わせをする馬渕博司さん(右)=4月19日、木津川市山城町平尾郷屋敷
 コロナ禍の影響で現在はやむなく休止中ですが、訪問先の施設や高齢者の方々とは太い絆があります。聴きながら教えられることもしばしばです。コロナ禍が終息に向かえば、従来通り訪問活動を再開しようと、会員研修を兼ねた例会は怠っていません。

 私が傾聴ボランティアを知ったのは、町内会や老人会など地域の世話役を引き受けていた十数年前のこと。高齢者施策に熱心な木津川市が、市社会福祉協議会などを通じて傾聴ボランティアの組織化に乗り出し、山城町地域で老人会の世話役だった私もグループ結成に参画したのです。

 ポスターなどで呼びかけ集まったのは、60代から80代までの18人。「心で相手の話を聴く」という意味で、会の名を「こころ」と決め2011年、発足しました。メンバーたちは、その前後に傾聴の基本を身に付けるため、市のボランティア養成講座を受講する一方、本を買って独自研修に努めました。今では、城陽市はじめ他地域で開く傾聴ボランティア講座などに会員が講師で呼ばれたり、研修テキストを自分たちで編集製作するまでになっています。

 現在の主な傾聴訪問先は社会福祉法人楽慈会の「湧出ぬくもりの里」など山城町地域の高齢者福祉施設2カ所と数戸の個人宅。1カ月に計6日以上の活動日を設け、施設には会員4〜5人で行き、一度に約30人のお年寄りに対応します。個人宅には3人で伺います。

 基本ルールとして、聴いたお話の守秘や体への接触禁止はもちろん、話の結論を誘導することのないようとくに注意しています。安易な結論は無責任につながり、誤解の原因ともなるからです。

 私自身は経験から、何か話を引き出すのではなく、自由に話してもらい「何を聴いてほしいか」をいち早くつかみ、次はどう答えてあげるべきかを考えながら聴くことにしています。お話は過去の思い出、家族の動向などが中心。反論せず時間をかけて聴く傾聴は、忙しい施設の職員さんでは手が回らないサービスの一つです。

 高齢者のみなさんは、癒やしにつながり開放感を得られるのでしょう。いつも期待して私たちを待っておられます。その期待に応えないわけにはいきません。傾聴後の「また必ず来てや」のあいさつが、私たちのやりがいです。

 地元区長などを務め地域に顔の広いことが、傾聴ボランティアに打ち込む契機になりました。昨年、病気をして会長職は辞したのですが、幸い回復しました。施設やその入所者さんとのご縁は大切に、引き続き「こころ」の活動をお手伝いするつもりです。


ばぶち・ひろし
1936年、京都府井手町生まれ。長年、運送会社の長距離運転手として勤務。2002年、仕事を退いた後は木津川市山城町地域で区長や老人会長を歴任。11年、傾聴ボランティア「こころ」を結成。21年まで会長として活動した。「こころ」は府から21年度社会福祉事業・ボランティア功労者知事表彰を受けた。