ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
来た道 行く道

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。


誠意尽くし子どもを支援


NPO法人「CASN」

理事長 谷口 久美子さん



 いじめや不登校、生きづらさなど、今の子どもたちを取り巻く状況は複雑、かつ深刻です。「家庭や学校で居場所を見つけられない子どもに安心できる居場所を作りたい」。私たちCASN(カズン)の活動目標の一つはそこにあります。

 大津市を拠点に結成から21年たち、安心できる居場所さえあれば、子どもは持っている力を十分発揮してくれることを、体験的に知りました。悩める子どもたちに、行政も手は打っていますが、年齢や学校別などで、輪切りにしてしまうケアになっています。一人の子どもを継続して支援するシステムが足りません。


居場所づくり事業の一つ「調理実習」の会場で、子どもに話しかける谷口久美子理事長(9月19日、大津市北大路・CASN事務所)
 民間団体の私たちは、そのほころびを埋め「子どもの事は全部お任せください」といえる活動を目ざしています。

 子どもたちの世界に今、何が起きているのか。CASNが2003年から本格始動させた「しがチャイルドライン」(毎週金曜日、第1火曜日)には、全国から小中高生の声が届きます。毎回5時間、2回線で受け、電話が途切れることはありません。個人情報は一切聞かないので家庭、学校、交友関係などから生じる不安、怒り、いじめの訴え、時には自殺予告も届きます。

 昨年はアクセス約9000件に対し、応答したのは約3100件でした。いじめを受けた子どもは親にも学校にも、まず話しません。聞き役は絶対に必要であり、すべての電話は最後まで「聞き切る」ことを原則にしています。

 チャイルドラインと並んで「あそび倶楽部」や「スローな子育て」も続けてきました。子どもも大人も年齢に関係なく、鬼ごっこ、こま回し、かまぼこ板落としなどいろんな遊びを通じて体験を広げるのが「あそび倶楽部」。「スローな子育て」は、乳幼児の子育てに戸惑い気味のお母さんらが、他の親子や保育の専門家とともに過ごすことで安心を得てもらう事業です。魚や野菜など旬の素材を一緒に味わいながら交流します。

 7年前からは「晴嵐みんなの食堂」(月3回程度)を始めました。子どもだけでなく、会場を提供してくださる地元商店街をはじめ地域の大人、大学生の協力で子どもたちがさまざまな人とふれ合い交流する居場所に定着しています。

 保育士として子どもに接してきた私は結婚後、大津で子どもたちが文化芸術にふれる「おやこ劇場」の活動に長年、携りました。高名な芸術家、音楽家を数多く招く中で、どんな大きい相手も「なぜ来てほしいか」を誠意と熱意で伝えれば通じる確信を持ちました。「1人の1歩でも周りを動かせる」と。子どもたちの支援も同じ。誠意を尽くし、より子どもに寄り添った支援を目ざします。

 課題は活動の運営費です。会員はみんな別に仕事を持ちながらのボランティア。市の委託事業も請けていますが財政は不安定です。活動に理解ある方々の応援、寄付は何より力になります。


たにぐち・くみこ
1949年、島根県生まれ。働きながら短大で保育士資格を取り、保育所に勤務。その後、会員制の全国組織「おやこ劇場」の活動を25年間続けた。2001年に有志30人で子ども支援のCASN(現会員64人)を結成。あそび場や子ども食堂開設などを通じ、子どもの居場所づくりを進めている。大津市在住。