ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。


知的障害者 尊ぶ生活環境を


社会福祉法人「京都ライフサポート協会」理事長

樋口 幸雄さん




「入所施設は生活の場としての質向上が何より重要。よい支援環境はよい職員を育てます」と話す樋口幸雄理事長(10月25日、京都市南区の就労支援・生活介護事業所「若杉」)
 重い知的障害がある人たちの暮らしを「最大限、質の高いものにしたい」「どのような施設、環境を提供すべきか」と考え続け、京都府南部を主なエリアに実践を重ねてきました。

 事業の第一歩は1995年、精華町に開設した通所作業所「工房グリーンフィールド」でした。6年後、「京都ライフサポート協会」の法人認可を受け、転変する国の支援制度ではなく、利用者さんのニーズに合わせた事業を興してきました。現在、グループホーム8カ所をはじめ、児童発達支援事業、生活介護や就労継続支援、短期入所、相談(圏域発達・就労)、居宅介護など、幼児から高齢者までを対象に10事業を展開。入所・通所合わせて3百人余の利用者さんを約150人の職員で支援しています。

 府内の知的障害者入所施設で24年間働いていた私は、51歳で念願の施設開設に乗り出しました。それまで多くの施設を見たり経験したりして、「これだけは実現したい」という強い思いがあったからです。施設の小規模化と個室化、ユニット化、職住分離。この4点こそ、施設から閉鎖性や集団性の弊害を除き、虐待や身体拘束の防止にもつながると確信していました。今も国に実現・普及を求めている課題でもあるのです。

 若いころ、多床部屋(5〜10人)が当たり前という施設の現実を初めて見た時に衝撃を受けました。「一人一人が尊重され、ありのままに地域で生き生きと働き、暮らせる施設にしなければ」と、強く意識したのはその時からです。

 施設の個室化、小規模化、ユニット化により、支援や介助に細かい目が届きます。職住分離(暮らす場と働く場を分ける)は、利用者さんがその人らしく生き生きと暮らす基盤になるはずです。

 木津川市に2002年、開設した障害者支援施設・横手通り43番地「庵(あん)」は、従来型施設の課題克服を目ざした実践例です。定員の40人が、5〜6人単位のユニット(完全個室)で暮らし、昼間は市外にある生活介護事業所に通って仕事に励みます。各ユニットは陽光を十分取り込む構造で、臭いのしない施設環境を維持するために清掃を徹底。敷地内には小径を通し、四季を彩る植栽を施しました。各方面から評価をいただき、全国から訪れる見学者は累計で1万人を超えています。

 施設の利用者さんやご家族にとって、本当は自宅で共に暮らせるのが理想でしょう。それでも「ここもまんざら悪くはないね」と思ってもらえる環境とサービスの提供。それこそが私たちの使命だと考えています。

 暮らしの場の質向上とともに最優先としてきた課題は、自傷や他傷などを伴う「著しい行動障害がある人」への支援です。限界に達した家庭の実態は深刻で、各都道府県にセーフティーネットとなる支援センターの設置を国に強く求めています。私たちもより専門性を高め、手厚い職員配置で対応していきたいと考えています。


ひぐち・ゆきお
1950年、京都市生まれ。重症心身障害児施設、島田療育園(東京)を経て南山城学園(本部・城陽市)に勤務。82年に久御山町に府内初のグループホームを開設、運営した。2001年、社会福祉法人「京都ライフサポート協会」を設立。日本知的障害者福祉協会副会長、京都知的障害者福祉施設協議会会長。