ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。


当事者らが平穏に楽しく


京都障害児者親の会協議会
会長
 前田 武藏さん




筋ジストロフィーと闘いながら、演劇の道を目ざす次男、渉吾さんの卒業式に同行した前田武藏会長(右)=3月20日、京都市北区・立命館大
 指定難病の筋ジストロフィーと闘う子どもの父親として、この25年近く、病気克服と患者・家族による福祉向上、相互支援の活動に関わってきました。

 私が支部長を務める日本筋ジストロフィー協会京都支部は、京都障害児者親の会協議会(京親協)を構成する府内28団体の一つです。2年前、京親協の会長に推され、各団体の悩みをくみとり、解決に導くとともに、行政などへ要望をつなぐ活動に携っています。

 京親協の参加団体は、身体障害、知的障害、難病、自閉症…と、さまざまな障害種別があり、提出される要望も一様ではありません。例えば、道路に視覚障害者向けの点字ブロックを敷く場合、電動車いすの筋ジストロフィー患者には危険を伴うことがあります。筋力が弱い患者では、路面の凸凹による少しの振動でも車いすの操作スティックから手が離れ、運転を誤る恐れがあるからです。

 時に起こる、こうした矛盾する課題も全体として調整しながら障害児者・家族のよりよい福祉実現を図っていくのが、京親協の役割だと自覚しています。「当事者・家族たちが、平穏に楽しく暮らせるよう、確実なアドバイスを提供する」。私の考える活動目標は、そこにあります。

 3年越しで続くコロナ禍が障害児者と家族に及ぼした影響は計り知れません。入院や福祉施設で暮らす人は家族と直接的な面会が長くできず、自宅で暮らす親子も外出が困難になって仕事に行けない親が出るなど、ストレスがたまり続けています。

 京親協には相談窓口のほか、リーダー研修や機関誌発行などの事業がありますが、コロナ禍の中でも会員・家族を力づけるためのコンサートや「はたちを祝うつどい」などの楽しい恒例行事はあえて実施してきました。

 私は父が視覚障害者、母が肢体不自由者だったので、幼少から人を介助するのが当たり前の家庭で育ちました。機械部品製造会社に勤めていた2000年、1歳8カ月の長男が、筋ジストロフィーと診断され、日本筋ジストロフィー協会京都支部に入会。これが福祉の道につながる契機になりました。今は障害者デイサービスなどを行う事業所に勤務。利用者さんとの日々の接触は、福祉について教えられることばかりです。

 長男と同じ病気の次男(22)は積極的な性格で、高校時代は演劇部に所属。近畿の代表で全国高校演劇大会にも出場しました。この3月に大学を卒業して、俳優を目ざす目標を掲げています。家庭では2人の息子の病状を見守りながら、若く元気なうちにできること、やりたいことをかなえられるよう介助していくつもりです。

 京親協をはじめ障害児者や患者団体の運営にとって、最優先の課題は後継会員の確保です。障害や治療の情報がネットなどで簡単に入手できる時代、「この会があってよかった」と言ってもらえる魅力づくりを模索しています。


まえだ・たけぞう 
1969年、京都市生まれ。会社員だった31歳のころ、98年生まれの長男が筋ジストロフィーと分かり、日本筋ジストロフィー協会京都支部に入会。2011年、同京都支部長に就く。17年、福祉事業所(伏見区)職員に。21年から京都障害児者親の会協議会会長。介護福祉士。中京区在住。