ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。


誰もが集える居場所に


みんなの食堂「おほりばた」
代表 小林 洋子さん




みんなの食堂「おほりばた」の開催当日、「子ども食堂は、地域の居場所としての期待が大きい」と話す小林洋子代表(近江八幡市内)
 近江八幡市は、ボランティアを志す優れた人材があふれる町です。東京出身の私が縁あって移り住み、子ども食堂の運営を続けられるのも、多彩な人材が密につながり助けてくださるから。この地域の物心両面の豊かさを実感します。

 みんなの食堂「おほりばた」は、子どもだけでなく、障害のある人やお年寄りを含め誰でも集える場です。2017年5月から、近江八幡のシンボル「八幡堀」沿いの古民家で、毎月第1日曜に定例開催しています。約30人の常連参加者には赤ん坊から102歳のおばあちゃんまでおられ、世代間交流の場にもなっています。

 近江八幡での私の出発点は、福祉分野ではなく、実は野良猫の保護活動でした。昔から小動物は好きでしたが、友人を頼って宇治市から移り住んだ9年前、八幡堀周辺で捨て猫を数多く見かけました。おなかをすかせ近隣へ迷惑をかけていたので、これを防ごうと友人らと給餌活動に着手。その年、NPO法人「ねこ塾」を開設して保護にも乗り出しました。皆で自宅に引き取ったりした結果、今では野良猫は姿を消しています。

 給餌活動は批判も受けましたが、住民の方々と接する機会になり、理解者も増えたのです。子ども食堂開業の動機は「空腹が続くと、人でも動物でも良い結果は生まれない」と考えたからでした。高齢者デイサービスの会場だった社会福祉法人所有の建物を借り、八幡堀にちなんで「おほりばた」と命名しました。

 テーブルなど必要な備品の多くを手作りしてくださったのは、市内の中高年男性でつくるボランティア団体「近江八幡おやじ連」のメンバーでした。開業以来、台所で料理に奮闘する女性十余人も、友だちの数珠つなぎで集まってくださったボランティア。「人間ってすばらしい」と思います。

 人の輪が広がり、食材のうち野菜やお米は、地元農家さんや篤志家からの無償提供でほぼ賄えるほどです。軽トラの農家さんが「食べてみて」とカボチャを満載して現れることもあります。でも全体の収支はかつかつ。財団や行政からの助成は頼みの綱です。

 コロナ禍では「会場も備品類もすべて自前」という私たちのフリーな立場が役に立ちました。学校の長期休校で給食が止まり大量の食材が廃棄処分になりかねない中、各所のフードバンクを走り回って食材をもらい受けました。台所のメンバー3人が月3回ていど集まり、1回約50食のお弁当を作って子どもたちに無料配布したのです。公的施設利用の子ども食堂が閉鎖される中で、役割を果たすことができました。

 約6年の運営を通じ分かったのは、ここが子どもの食事支援以上に地域の居場所、世代間交流の場として期待されているということでした。そこで5月からは、高齢者を含む大人対象の軽食サロン「みんなで!おほりばた」(月1回)を始動させようと、いま準備を進めているところです。


こばやし・ようこ
1952年、東京都生まれ。長く住んだ宇治市から2014年、近江八幡市に移り、野良猫保護のNPO法人「ねこ塾」を開設。17年から始めた、みんなの食堂「おほりばた」では、八幡堀でのカヌー体験も実施中。障害のある人を守る「東近江・あんしんネットワーク」の相談員も務める。近江八幡市在住。