ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
来た道 行く道

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。


プライド尊重、寄り添って


京都市社会福祉施設連絡協議会
会長
 山岸 孝啓さん




「福祉に携わる人たちには、常にケアや支援の原点を問い続けてほしい」と話す山岸孝啓さん(京都市下京区、ひと・まち交流館)
 福祉の道に23歳で飛び込んで以来、特別養護老人ホームなどの職員や施設長として45年間現場に携り今春、いったん引退しました。この間、福祉事業や施設に関連する団体のお手伝いをするようになり、現在は京都市社会福祉施設連絡協議会(施連協)会長のほか、相談役などとして関連団体や施設の運営に関わっています。

 長く現場を預かり、あらためて思うのは「ケアや支援の本質」です。施設の入所者、利用者さんの多くは加齢や障害から来る喪失感、悲しみなどを抱え、以前はできたことができなくなったショックもある。そんな悲しみや苦しみを(時には楽しみも)共有すること。同情ではなく、プライドを尊重しながら寄り添うこと。それが私の考える本質です。

 福祉の現場はどこも忙しく、仕事の効率や数字ばかりに目が向きがちですが、ケアや支援の本質を忘れてはなりません。

 私が福祉の道を志すきっかけは大学(社会福祉学科)の活動で、荒れる中2男子の家庭訪問をしたことでした。心を開いてくれるまで長く関わり一緒に泳いだり野球もするうち、徐々に生活の落ち着きを取り戻しました。生徒にも母親にも喜んでもらえたことで「人の役に立てる仕事を」と心を決め、選んだ進路は京都市左京区の特別養護老人ホームでした。初めはニワトリの飼育やイチゴを育てる毎日。不満もありましたが、この経験は入所者さんとのコミュニケーションに役立ち結果として「無駄でなかった」と悟りました。生活指導員で16年働き、次の職場「京都ライトハウス」へ送り出してもらったのです。

 ライトハウスでの7年間は、盲養護老人ホームを担当。視覚障害の人と交わることで「何でも丁寧に説明することの大切さ」を学びました。2001年からは、京都市内3カ所の特別養護老人ホームで、それぞれ5〜9年ずつ施設長や園長として勤めました。

 福祉事業・施設関連団体との出会いは、京都社会福祉士会が最初です。国家資格の社会福祉士は、成年後見も受任でき、施設入所者さんらにとって生活改善を求める際の代弁者にもなる重要な存在。福祉士会はその養成・研修に当たっています。私は1993年の会設立から参加。会長を退いた今も活動を応援しています。

 コロナ禍が襲った3年前は、ちょうど京都市老人福祉施設協議会(市老協)の会長でした。加盟128施設の中でも、クラスターが発生。職員の欠けた入所施設への応援派遣が急務となり、府、市と連携して市老協など関係5団体で応援協定を締結。多い時は一度に約10人を派遣するなどして危機を脱することができました。

 各団体とも今後の課題は多様ですが、中でも施連協は高齢者、障害者の施設に保育所なども加わる異業種的団体です。老・障・児が連携して地域で、新しい公益的活動を広げられないか。そんな期待も込め次の活動を構想中です。


やまぎし・たかひろ
1955年、京都市生まれ。
佛教大卒。左京区の特別養護老人ホーム・静原寮を振り出しに京都ライトハウスや京都桂川園(西京区)など高齢者、障害者の福祉施設に今春まで勤務。2007年、社会福祉功労で厚労大臣表彰。京都市社協副会長、京都市老人福祉施設協議会顧問。京都社会福祉士会相談役。大津市在住。