ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。


「社会的養護の理想郷」目ざす


社会福祉法人ひかり会守山学園
施設長
 谷村 太さん




「地域で子どもたちを守るため、敷地内に児童家庭支援センターの併設を急ぎたい」と話す谷村太施設長(守山市笠原町の守山学園)
 守山学園は滋賀県内に4つある児童養護施設の1つです。貧困や虐待など、さまざまの事情で家庭を離れて暮らす子どもたちを受け入れ、現在は幼児から高校生まで30人が暮らしています。

 県職員として、知的障害のある子どもの県立施設「近江学園」で通算約30年働いた私は、定年退職後に声をかけていただき5年前、守山学園の施設長に就きました。まず考えたのは「地域のために何ができるか」でした。

 園には、地元行政や関係機関との意思疎通が不足していました。もっと、地域と緊密に結んで困難を抱える子育て家庭を支援したいと、「地域連携室」の設置を決断。園よりも交通利便な守山市役所近くに1室を借り、障害のある人の相談支援、里親支援、施設退所後の自立支援を始めました。

 一方の園内は、定員割れが続き職員数も少なく、私の就任初日に廊下の床が抜ける有り様。施設、組織とも一新する必要性を痛感し、改築計画を立てクラウドファンディングを実施。寄付もいただき、約3200万円が集まったのでした。

 昨秋完成した赤い屋根の新園舎は、子どもたちに「我が家」と感じてもらえるよう3ユニット(棟)に4人ずつが暮らす設計。1棟に職員4人を置く手厚い体制を整え、一時保護専用の1棟も設けました。近江八幡市など外部に分園型小規模グループケアと地域小規模児童養護施設の計3棟(1棟6人)も開設しています。施設と職場環境の好転で、いま子どもたちの定員は満杯に。職員数は50人超と以前の2倍以上に増え、地域福祉の拠点として機能できる体制が整ってきました。

 福祉の道にかかわる私の出発点は陶芸でした。焼物が好きで、高校は越境入学で窯業科のある信楽工業高(当時)に進み、京都府和束町の自宅から自転車で通学しました。大学時代は釉薬などを学び1979年、県に陶芸の職業指導員として採用されたのです。

 配属先の「近江学園」では、子どもたちに、粘土の積み方から教えました。ちょうど、障害を個性に純粋で自由な造形(アール・ブリュット)が注目され始める時期でした。自由な造形制作は成長や生きがいにつながると確信。京滋の施設が、京都で合同開催する「土と色」展には20年近く携りました。

 スイスのアール・ブリュット美術館から依頼を受け、作品展示したのは2008年。これを機に子どもたちの作品が国内外で広く鑑賞されるようになり障害への理解が進んだのは幸いでした。

 福祉の現場を預かり「社会的養護の理想郷」を目ざす今、急ぎたいのが児童家庭支援センター(第2種社会福祉事業)の開設です。児童相談所を補完して、困難を抱える家庭などからの相談に応じ助言、援助もする施設。子どもを守る地域ネットワークの構築に、ぜひ必要なのです。


たにむら・ふとし
1957年、和束町生まれ。京都工繊大卒。滋賀県職員として湖東福祉事務所、小児保健医療センターなどに勤務。近江学園では陶芸指導員として作品展示、発表に携った。副園長で退職後、2018年から守山学園施設長。日本知的障害者福祉協議会会長賞受賞。湖南市在住。