ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。


介護で支える安心の暮らし


NPO法人「ユナイテッド・ケア」
代表理事
 森村 敬子 さん




「福祉と介護の充実で誰もが安心して暮らし続けられる地域づくりに尽くしたい」と話す森村敬子代表(近江八幡市鷹飼町、市東部地域包括支援センター)
 高齢者を主な対象にした福祉の世界に携って40年近くになります。初めは行政の職員として、途中からは民間の介護事業者として歩んできました。

 2000年に始まった介護保険制度は、財源の問題以上に人手不足が深刻です。介護報酬は低く抑えられ、介護職の昇給はごくわずか。このままでは、頼みの外国人労働者も寄り付かず、存続不能の事業所が増えかねません。

 現場に長く身を置くと、介護の危機的状況は手に取るように分かります。「行政も市民も、なぜ気付いて行動しないのか」。歯ぎしりしながら、今後は危機を広く知らせ、健康寿命を延ばす支援活動にも乗り出す計画です。

 新卒で近江八幡市の一般事務吏員に採用された私が、福祉に眼を開いたのは、市民保健センターに勤務して保健師さんの仕事を知ってからです。「生活の基本になる健康を守り福祉を向上させるため、市民に直接、かかわれる仕事。私もこの道で」と決め、勤めながら社会福祉士の資格を取得。幸い、その後も福祉事務所など福祉にかかわる部署で仕事を続けることができました。

 介護保険の開始時は市の準備が不十分で、市長に進言して人事を含め手厚い体制を整えてもらい、先進的な介護施策を打ち出したこともありました。

 介護事業に異業種からの参入が始まると、その介護の質は千差万別でした。行政職員として本当に市民に良質な介護を保証することの限界を感じ、47歳で市を辞め、デイサービスなど介護と福祉のNPO法人を設立しました。「ケアの本質はこれだ」といえる介護を提供したかったのです。

 実際に事業を始めてみると多くの高齢者が、制度の恩恵から取り残されている実態を知りました。高齢者の権利を守る相談機関の必要性を痛感して、13年にケアマネジャーの事務所を兼ねた「ユナイテッド・ケア」を開設。市の委託を受け包括支援センターの運営も始めました。  事業を広げると、志を同じくする仲間も増えます。市内で開業する松尾隆志医師は先進的な地域医療を実践され、介護への理解も深く、8年前に私たちの運営してきた介護事業を松尾医師が理事長を務める医療法人に統合しました。事業の安定と継続を図り、後進に私たちの理念を受け継いでもらうための決断でした。

 昨年、松尾医師を代表に新たな社会福祉法人「美絆(みはん)」が設立され、介護事業部門はそちらに集約。現在、市内と竜王町にデイサービスやグループホームなど介護事業の9施設を展開しています。

 現場で今、気がかりな一つに孤立死や家庭での高齢者虐待増があります。危機を訴えても行政は被害者を救済する措置権の発動に消極的です。福祉行政の機能低下を危惧しています。福祉と介護の危機は至る所に見えますが、私たちは現況にめげず、誰もが安心して暮らし続けられる地域づくりに尽力していくつもりです。


もりむら・けいこ
1961年、近江八幡市生まれ。82年から、近江八幡市職員として高齢者や障害者福祉に従事。2009年、市を退職して独立。NPO法人代表となり介護事業の運営を始める。近江八幡市総合介護市民協議会委員のほか市東部地域包括支援センター長などを歴任。医療法人「敬絆会」参与。近江八幡市在住。