ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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シンポジウム「障害のある人の就労支援」


支援学校の実習増 理解進み壁なくせる
個性や人格を尊重 企業にもプラス(2021/03/08)


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障害のある人の就労をめぐり、地域ネットワークの果たす役割などについて意見を交わすパネリスト(2月13日、京都市中京区・京都新聞文化ホール)
 シンポジウム「障害のある人の就労支援」(京都新聞社会福祉事業団主催)が2月13日、京都市中京区の京都新聞文化ホールで開かれた。昨春、企業就職を果たした支援学校卒業生らが体験を語るなど、貴重な報告や提言が相次い?だ。シンポは「ビデオ会議アプリZoom(ズーム)」を使ったリモート形式で進められ、会場参加とリモート参加の計約70人が真摯(しんけん)な議論を見守った。

 はじめに、保険会社「ぜんち共済」(東京)社長の榎本重秋さんが「働くための生活基盤を考える」と題し、東京からZoomで講演した。

 外資系損保会社の社員だった榎本さんは、障害のある人の多くが生命、医療保険の対象外にされていることに反発。独立して2006年、知的障害や発達障害のある人専用の少額短期保険を扱う「ぜんち共済」を創設した。中小企業家同友会全国協議会の障がい者問題委員会に加わり、自ら障害者雇用にも取り組んでいる。

 「障害のある人が安心して暮らし、働くために保険は不可欠。当社の契約者は5万人を超えたが、全体からみた加入率は微少。もっと普及させなくてはならない」そう訴える一方で榎本さんは、就労を広げる方策として、企業が支援学校生などの実習を積極的に受け入れるよう提案した。

 「職場で事前に触れ合えば社員の理解が進み壁はなくなる。障害のある人を雇用して分かったのは、社内のコミュニケーションが向上して社員の笑顔が増えたこと。『出会いを尊び、共に助け共に生きる』は、今や当社の経営理念になっている」と述べた。

 シンポ後半のパネルディスカッションは、企業や支援学校、京都中小企業家同友会などが参加する乙訓圏域障害者就労支援ネットワーク「たけのこ」(長岡京市)の活動と成果を中心に展開。京都府立向日が丘支援学校教諭、夏川久子さんら3人が、企業との連携や就労を進める環境整備について議論を深めた。

 夏川さんは、ネットワークでつながる企業を学校に招き、業務と就労の実際を話してもらうミニ説明会などが、生徒にインパクトを与えていると報告。「生徒が興味を持った企業を訪れ、体験実習もできるようになり就労機会が広がった。学校と企業がじかに連携できたのは大きい」と話し、広くネットワークの活用を呼びかけた。

 建材会社(西京区)社長の小原弘也さんは体験実習の受け入れや、支援学校卒業生の雇用に踏み切った感想を述べた。「採用した新卒生との出会いによって、ネットワーク上の多くの人とつながりができた。それが、生きること、働くことの意義を考えさせられる機会にもなった」

 設備会社(長岡京市)社長、橋並将人さんはネットワークに支援学校生を雇用する意欲を伝え今春に1人を採用する。「障害のある人たちには、働くことは難しくないし、当たり前だと思ってほしい。私も、当たり前になるよう力を尽くしていく」

 会場からは、小原さんの建材店に昨春就職した支援学校卒業生、岩瀬透夜さんも発言。「実習で社員さんらの人柄を見て、ここで働きたいと感じた。仕事にも慣れ今はリフトの免許取得を目ざしています」と、働くことへの意欲を示した。

 討論の進行役を務めた菓子製造会社(中京区)の石井雄一郎さんは「個性や人格を尊重して共生する意識を持たないと企業は成り立たない。障害のあるなしにかかわらず共に働き、地域を幸せにしていく考え方が大切だ」と総括した。