ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
広がる 地域の輪

NPO法人「JDDNet滋賀」

正しい理解促し就労へつなぐ
発達障害者の自立目指して(2020/04/14)


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JDDnet滋賀は体験・研修事業の開催が多い。親子で参加する「からだづくりと心ほぐし体験」で手足を動かす参加者たち(昨年10月19日、湖南市西峰町・サンヒルズ甲西)=提供写真

 自閉症、学習障害(LD)などの発達障害は、周りが早く気付いて幼少期から適切な教育や医療の支援を続ければ、就労を果たし自立できる人が少なくない。

 JDDNet滋賀は、発達障害のある人の親や研究者、医療関係者らが、障害種別ごとに分かれていた県内の活動団体に「自立支援へ力を一つに」と結集を呼びかけ生まれた。2005年、任意団体を発足させ、県自閉症協会、県ことばを育てる親の会、滋賀LD教育研究会など5団体が加わって体制を整え07年、全国組織の日本発達障害ネットワーク(JDDNet)に加盟した。

 当時は発達障害の中でも、知的発達に遅れがないアスペルガー症候群や学習障害の人が職場や学校で白眼視されたり、公的支援からこぼれるケースが多発していた。

 「学校の理解もまだ乏しく、発達障害の子どもを『怠けている。やる気がない』と叱る先生がいました。知的遅れがなくても、読み書きや計算、コミュニケーションに苦手があるのがこの障害の特?徴。教育現場を含め行政、社会一般に理解を促し、発達と就労の一貫した支援態勢を求める声が噴出したのです」。副理事長の前坂雅春さん(66)は、任意団体発足時のいきさつを明かす。

 団体がNPO法人に衣替えした2010年には、前坂さんら設立時メンバーが資金を出し合って草津市の商店街に事務局を兼ねたコミュニティーカフェ「ほっとSPACEくさつ」を開設。市民との交流拠点にする狙いもあり、カフェでは発達障害のある中高生らが就労体験を兼ね接客に当たった。

 相談室も置かれ、行政などでは回答が難しい相談にも役員らが交代で対応した。閉店までの7年間で、接客する子どもたちの「話す聞く」の能力が向上するなど確かな手応えが得られたという。

 カフェを開いたころ、団体内部の約200人に行った実態調査では、一般就労ができた人も正規雇用はわずか26%。発達障害の生徒について小中高校に作成が課された「個別の指導計画」は、全体の半数ほどしか実行されず、地域間の格差が大きかった。制度上、発達障害専用の障害者手帳はないため、やむなく精神障害者手帳を取得して使用時に困惑したり、取得をためらう人が多いことも分かった。

 結果を踏まえ会員らは、活動の柱を発達障害についての正しい理解と啓発、調査研究、相談、講演・研修などに定め、事業化を進めた。教育と就労、社会参加の支援はとくに力点を置き、新旧の課題や制度見直しについて県と定期的に協議する場を新設。県障害者施策推進協議会など公的議論の場にも法人から委員を送っている。

 学齢期の子どもたちに対する支援態勢は順次、進んできたが県内の地域間格差はまだ残る。理事長の脇阪恭明さん(65)は「格差解消を促すとともに今後は、公的支援が届きにくい閉じこもりの人や、大人になって発達障害が分かった人へ光を当てたい。私たちが外に出て直接、対応する仕組みも考えていく」と話している。

JDDnet滋賀
発達障害に対する正しい理解と適切な支援を訴え、親の会など県内の関係5団体が参加して2005年に発足。10年に法人化した。役員は大阪体育大の藤井茂樹教授ら14人。事務局は大津市里5の22の5。EメールJddnet_shiga@yahoo.co.jp