ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
広がる 地域の輪

こどもソーシャルワークセンター

コロナ禍にも緊急対応
安全な居場所を提供(2021/03/29)


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ボランティアも交え、横断幕の準備や発表の打ち合わせで知恵を絞る子ら(14日、大津市観音寺)

 新型コロナウイルスの感染拡大で全国的に学校の「一斉休校」や「緊急事態宣言」となり、子どもたちが約3カ月も自宅にいることを強いられた昨春からのこの1年。大津市で「こどもソーシャルワークセンター」を運営する幸重忠孝理事長(47)は、地域の中での子どもの居場所の意義を再確認した。

 同センターは、要支援家庭の子どもたち(小中学生)の夕刻からの生活を支える活動「トワイライトステイ」や、主に高校生年代の子らを中心に週末の日中を過ごす居場所「『ほっ』とるーむ」などの取り組みで成果をあげてきた。

 3月中旬の日曜日。子どもらは翌週の22日の同市での「子どもの貧困対策 全国キャラバンin滋賀」で発表する「滋賀のこども・若者からのメッセージ」について話し合ったり、掲げる横断幕の準備をしたり、スマホを見たり、ゲームをしたりと思い思いの時間を過ごしていた。

 トワイライトステイは、保護者の仕事や病気などで家庭では十分に生活できない子どもたちを対象に、一人一人とゆっくり関われるように1日の定員を3人にして午後5時から受け入れ、ボランティアの学生らと一緒に遊んだり勉強したり、食卓を囲んで雑談し、近所の銭湯に行ったりと、家庭と同様の数時間を過ごす。貧困や学校でのいじめ、不登校などの課題を抱える子もいるが、「その子の状況に応じた、安全で安心な場と時間を支えていくのが肝心」と幸重さん。

 受け入れた子どもは毎回、センターのスタッフやボランティアがおしゃべりしながら自宅まで送り届け、保護者と情報交換も図る。子どもの置かれている状況や抱えている問題を理解し、家出や虐待などの大変な状態になる前に、「心配だな」の段階で手を差し伸べられるよう、「週1回ほどのペースでも、出会える機会があることが大切」との考えからだ。

 ところが「コロナ禍」で状況は一変。学校や学童保育など、普段の子どもたちの居場所が活動を休止し、「学校には通っていたが、生活困窮や虐待など家庭環境が厳しい」子どもたちを、感染予防しながら受け入れる必要が出た。月曜から土曜の午前10時から午後9時まで3交代制、最大定員3人の緊急受け入れを始めた。一方、家庭が安定している不登校傾向の子などの利用は一時的に休止することに。

 緊急事態宣言が出てからは、子どもらの外出機会が大きく減り、センターに来る以外はずっと家にいる子もいた。感染への恐怖から一歩も外にでられないほど不安を膨らませる子もあった。コロナ禍で非正規雇用など就労状況が悪化した保護者のストレスや不安が子どもや家庭内に影響し、狭いなど居住環境の悪い家庭では、子どものストレスもたまる。センターで大声で歌う子ども、自宅にネットやゲーム機がなく「退屈」を訴える子らの様子から、「居場所」の意義を幸重さんらスタッフはかみしめた。

 在宅子育てのストレスは保護者にもうかがえ、送迎の玄関先では痩せたり顔に生気がなく、疲れが目に見えることも。こうした経験を踏まえ幸重さんは、「子どもを支えるのは家庭を支えることでもあり、自然と家庭の問題や相談が出てきます」と指摘。子ども・家庭と専門機関とが連携するため「こどもソーシャルワーク」の必要を強調した。

こどもソーシャルワークセンター
2012年、京都市山科区で幸重社会福祉士事務所としてスタート。16年に大津市観音寺に移転し現名称に。18年からNPO法人。スタッフは現在、6人。子どもの状態、必要としている状況に合わせた活動が大切と、既存の制度にとらわれず、地域の中で子どもを支える。19年度のトワイライトステイは延べ約200人が、「『ほっ』とるーむ」は延べ約500人が利用した。