ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
広がる 地域の輪

京都聴覚障害児放課後等デイサービス「にじ」

仲間をつくる第3の居場所
「もう1回言って」言える力を(2021/06/21)


写真
手話の基になる指文字表などが掲げられた「にじ」の教室内で、宿題や折り紙細工に取り組む子どもたち(京都市上京区丸太町通黒門東入ル藁屋町)

 長い廊下の奥、「にじ」が入る教室はいつも午後2時過ぎからにぎやかになる。「ただいま」。6月初旬の梅雨の晴れ間、学校の授業を終えやって来たランドセルの男児たちが入り口で大きな声をかけた。

 「お帰り、暑かったでしょ」女性職員に迎えられ、手洗いを済ませた男児たちは大きなテーブルに着いて早速、宿題のノートを広げた。隣のテーブルでは、折り紙や絵本を手にした子どもたちの間で、盛んに手話と歓声が行き交った。

 京都市上京区の元市立待賢小学校2階にある「にじ」は、社会福祉法人京都聴覚言語障害者福祉協会が2013年から運営する。1日の定員は10人で、小中学校の難聴、普通学級や府立聾(ろう)学校の生徒を含め小学生から高校生までが通う。室内では「見て分かる方法」として手話を共通言語と定め、1日15分程度の「手話タイム」を励行。公園や博物館などへ出かける外出企画も積極的に取り入れている。

 「子どもたちはみんな補聴器や人工内耳を付けていますが、自分の聴力レベルを自分では判断できません。障害を自覚して、聞こえない時は分かるまで『もう一回言って』と訴える力が必要。そんな力を、ここで養ってほしいのです」。職員の加藤桂子さんは、子どもたちの成長に期待をかける。

 「にじ」の開設は、放課後や夏休みなどの長期休暇中に子どもたちの居場所を確保するのが目的だった。聾学校や難聴学級に通う生徒は、遠距離通学が多く「自宅周辺に学校の友達は少ない。帰宅後と週末、長期休みは自宅以外に居場所がない」という悩みを抱えていた。

 保護者らの声を受け09年、同福祉協会が自主事業として京都市聴覚言語障害センター(中京区)で、長期休暇中のデイサービスを開始。12年、児童福祉法改正で障害のある学齢期の子どもを対象に放課後等デイサービス事業が認められたのを受け翌年3月、「にじ」をスタートさせた。

 現在の開所時間は火曜〜金曜の放課後から午後6時まで。土曜と長期休暇中は午前10時〜午後4時。安全のため子どもたちは希望に応じ職員が送り迎えしている。

 長女を8年間通わせ、保護者から「にじ」の職員になった木瀬歩さんは「娘は障害を同じくするここの集団でもまれて、親しい友だちをつくり、外出企画に参加して体力もつきたくましくなりました。今後も、『にじ』を安定的に運営していきたい」と話す。

 学校でも自宅でもない「にじ」は仲間づくりとともに、子どもたちが聴覚障害の大人と接することができる数少ない場所でもある。職員のうち3人は聴覚障害のある人たちで、当事者ならではの行き届いた仕事ぶりが、子どもたちには「目ざすべき大人像の一つとして映っている」(加藤さん)という。

 運営上の課題は、聴覚障害がある職員の採用を増やしたくても、現行制度では報酬などに反映されず実現が難しいこと。使用期限が2年を切った現教室からの移転先確保も、焦眉の急となっている。

にじ
京都聴覚言語障害者福祉協会の独自事業「聴覚障害児デイサービス」が前身。公的制度として障害児の放課後等デイサービスが始まった後の2013年、旧京都社会福祉会館(上京区)内で活動を始め20年、現在の場所に移った。登録生徒55人、職員9人。事務局075(406)7530