ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

こころの宝物

2020.07.14

  • コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

僧侶・歌手 柱本 めぐみ

ほんの短いまどろみの中で夢を見ました。ぼんやり目覚めると、もう聞こえるはずのない祖母や父の声がかすかに聞こえたような気がして、やがてそれは遠ざかっていきました。その日は実家で掃除。しばし畳に寝転んでいるうち、うとうとしてしまったのでした。

私の実家は西陣の古い町家で、登録有形文化財に指定されています。京都にある数々の立派な建物には比ぶべきもない物ですが、私なりに次の時代に残す手だてを思案しておりました。

古い建物は維持するだけでも費用がかさみます。そこで、家の一部を宿に改修する決心をし、約1年の時間と多くの方のお力添えによって、昨年末に完成式までたどり着きました。

しかし、新型コロナウイルスの影響で宿は開業と同時に休業。ショックでしたが仕方ありません。自粛要請でコンサートも寺の法要もなくて暇でしたから、定期的に宿の掃除をし、手つかずになっていた物置の整理をして過ごしました。

家中掃除をしても、いわゆる「お宝」は出てきませんでしたが、古い物はたくさん出てきました。かつて帯屋を営んでいた頃の道具、使い込まれた五つ玉のそろばん、屋号の入った法被。また、おくどさんのあった通り庭には釜がたくさん残っていて、人が確かにここで日々働いて、食べて、そして生きていたことを物語っていました。それらの全てから、人々があって、今ここに私がいることを深く感じたのでした。

色あせた箱の中からは、私が小学校の時に描いた絵や作文が出てきました。決して上手ではないなと苦笑しながら、ふと子どもの頃から今までの数々のご縁を考えた時、私は「お宝」を見つけた気がしたのです。

時の流れの中で、いのちと共に受け継がれてきた人とつながりは、一銭にもならないけれど、お金を積んでも買えない貴重な宝物。それが、私のこころの中にあったのです。

絶やしたくないこころの宝物。形のないこの宝物をどのように残すのか。思案の日々が続きそうです。

はしらもと・めぐみ氏
京都市生まれ。京都市立芸術大卒。歌手名、藤田めぐみ。クラシックからジャズ、シャンソン、ラテンなど、幅広いジャンルでのライブ、ディナーショーなどのコンサートを展開。また、施設などを訪問して唱歌の心を伝える活動も続けている。同時に浄土真宗本願寺派の住職として寺の法務を執り行っている。