2020.09.21
2020.09.21
「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。
僧侶・歌手 柱本 めぐみ
あかね色の雲が広がる雨上がりの夕空。その空をぼんやり眺めていた私の肩をかすめた風が思いのほか涼しく、ひと雨ごとに深まる季節を感じた時、秋の歌が次々と浮かんできました。
秋の歌といえばどんな歌を思い出されるでしょう。「赤とんぼ」「紅葉」「里の秋」「ちいさい秋みつけた」など、多くの人に親しまれ、歌い継がれてきた叙情歌がたくさんあります。それらのやさしい旋律や、日本の美しい情景が織り込まれた歌詞には、何とも言えない寂寥(せきりょう)感や郷愁を覚えると同時に、人を思い慕うこころのぬくもりを感じます。
先日、そんな秋の歌を歌う機会をいただきました。京都府視覚障害者協会主催の成人講座で、僧侶として話をし、歌手として歌わせていただきました。今年初めての舞台でした。
参加者は全員マスクを着用されていましたので、対面していても、表情は全く分からず少し不安でした。しかし「旅愁」という歌の「恋しや故郷 なつかし父母」という歌詞を歌ったとき、私はいつも以上にこころに沁みる何かを感じたのです。それは、皆さまのあたたかさ、じかに伝わってきたこころの温度でした。
一堂に会し、今という時を共に過ごせることのありがたさ、感謝の気持ちを分かち合えた貴重なひとときでした。そして終演後、「久しぶりのコンサートは本当に楽しかった」と話しておられる方の明るいお声は、私にとって大きな励みにもなりました。
今は通信回線が人をつなぎ、ビジネスにも日々の生活にも不可欠な物となっています。さまざまな通信手段によってリアルタイムで感動を共有したりすることもできる時代です。けれども、私が感じたこころの温度は機器を通して伝えることができるでしょうか。
これからも世の中は変化していくでしょう。利便性が向上すれば、私もそれを利用することになると思います。だからこそ、時にはメールではなく手紙、できるなら足を運んで会いにいく、そんなことを心がけたいと考えています。
はしらもと・めぐみ氏
京都市生まれ。京都市立芸術大卒。歌手名、藤田めぐみ。クラシックからジャズ、シャンソン、ラテンなど、幅広いジャンルでのライブ、ディナーショーなどのコンサートを展開。また、施設などを訪問して唱歌の心を伝える活動も続けている。同時に浄土真宗本願寺派の住職として寺の法務を執り行っている。