ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

ACT―Kの今

2021.05.24

  • コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

ACT―K主宰・精神科医 高木俊介

重度の精神障害者の地域生活を支えるACT―K(包括型地域生活支援―京都)の活動をはじめて、気がつけば17年が過ぎていた。

先日、NHKが私たちの活動を取材した番組を作った(「こころの時代」4月25日放送。NHKオンデマンドで見ることができる)。そこには、私たちが15年間支援してきた方が出ている。その方は、病院では長期に隔離が必要なほどに重い症状があったが、それを見かねた両親が自宅に引き取り、私たちに支援を託した。この間に、両親がともに病に倒れ、1人暮らしになった。とうてい無理と思われた独居生活を、私たちACTと複数の福祉介護事業所が協力して支えるようになった。多くの困難があったが、今では24時間見守られながら生活をしている。

多職種のチームによって、その人が生活する現場に出かけて支援する。多職種による多角的な視点からその人の生活を見ることで、どのようなストレスや葛藤、困難があるのかを直接に理解し、それを取り除いたり、一緒に乗り越え方を探す。単に薬で精神症状を抑え込むことや、アドバイスを与えるだけで本人ひとりやその家族に解決を任せてしまうことでは、重い精神症状を抱えながらの生活はうまくいかない。生活の現場で、ひとつひとつの躓(つまず)きの石を丁寧に取り除いていくことが必要なのだ。そのためには、支援する側が現実生活の場をともにしながら、小さなシグナルに気づき、自ら判断し責任をもって行動することが求められる。幸い、そのようなことができるスタッフに恵まれて、今まで続いてきた。

だが、このような支援が当たり前になるには、まだまだ遠い。多職種チームがつくれる制度は乏しい。在宅医療も福祉介護も、人材が圧倒的に不足している。対人支援は、支援者の手が足りなければ、制度に人をあてはめるだけの機械的支援に終わってしまう。

「こころの時代」という私たちの活動の記録が、支援する人を育てるきっかけとなれば幸いである。

たかぎ・しゅんすけ氏
2つの病院で約20年勤務後、2004年、京都市中京区にACT-Kを設立。広島県生まれ。